Veronica

@Shion1021

第1話 朔

俺は..俺は何故ここにいる?

森だ、まわりは全て木で覆いつくされている。

足が強く痛んで、とても良い気分とは言えない。

俺は何故ここにいるんだ?


思い出さなきゃいけないということは思い出した。


自分の家は、正直金がなかった。

でも、幸せじゃないってわけじゃなかった。

少ない金でもご飯を食べて、家族と笑いあって生活できている。友達もいる。

ある日、一通の手紙が届いた。内容はよくわからなかったが..とりあえず、家族でなんかを試すとお金がもらえるという内容だったらしい。

もちろん、母親と俺と兄はそれを了承して手紙に書いてあった場所に向かった。

そこは本格的な実験所のようだった。自分たち以外にも、6人ほどの子供と、4人ほどの大人が来ていた。

入り口の前で四分くらい待つと、扉が開き白衣を着た男の研究員のような人が出てきた。

「ついてきてください。」

とだけ研究員は言うと建物の中へ入っていく。中は明るく、清潔感のある白い壁で作られていた。

しばらく廊下を歩き、階段を上がり、変な部屋へ入った。俺達は指定された椅子に座った。

研究員は

「今からこちらの番号順に皆様の名前を呼びますので名前が呼ばれたら隣の部屋に入ってください。」

と言い、隣の部屋へ入っていった。皆がざわつき始めたが、それもすぐに収まった。誰かの名前が呼ばれたからだ。

すると、自分の二個となりの大人が立ち上がり隣の部屋へ向かった。


数分経っても、その大人は戻ってこなかった。そして自分の母親の名前が呼ばれた。

母親は俺の頭をなでると、隣の部屋へ向かった.....そして、戻ってこなかった。

しばらくして全員大人が隣の部屋行き、帰ってこなくなったので流石に俺と俺の兄は怪しみ始めた。

その話を聞き、俺と同じくらいの子供も怪しみ始める。

「ねぇ..やっぱり、危ない実験をしてるんじゃない?」

俺の隣の水色の髪の女の子が俺に言った。でも確証はない、危ない実験をしているのだったら叫び声の一つも聞こえないのはおかしい。

「次、誰かが呼ばれたらちょっと部屋をのぞいてみようと思う。」

俺がそう呟いていると、兄よりちょっと上の男の人が呼ばれ、その人は隣の部屋に向かった。

俺はその人についていった。後から兄もついてきた。

扉を閉じるときに、その男の人は少し隙間を作ってくれた。そこから俺達は部屋の中を見ることができた。

部屋の中は、変な灰色の砂のようなもの以外特に気になるものはなかった。

男の人は椅子に座らされ、何かの注射をされたように見えた。

すると、その瞬間に男の人の体は..


灰になった。


他には、何も起こらなかった。ただ注射されて..灰になった。

骨も、肉も、皮も、何も残らずに。

俺達は怖くなって自分の席に大急ぎで戻った。今目の前で起きたことが信じられない。人が跡形もなく灰になってしまったということ。

そして、床に転がっていた灰色の砂の正体は、自分の母親を含めた大人達だ...体が震え、呼吸が早くなる。

死んでしまったのか?これから自分は死んでしまうのか?

様々な思考が頭の中をぐるぐるとめぐるが、それはどれも、『死』についてだった。

兄が、決心をつけたように皆に言う。

「さっき、俺はお前の親達、そして俺の親たちが死んでいるのを確認した。」

皆、叫びもせず息を止め次の言葉を待っている。だが次に聞こえたのは、俺の兄が呼ばれる声だった。

「だから..逃げるんだ。ここから早く。」

そう言い、ペンナイフを俺に手渡して兄は隣の部屋に向かった、俺より少し下の子供たちが、反対側の出口の扉を開けようとするが、カギがかかっていて出られない。

だが、俺は扉を開ける手伝いをしにはいかなかった。兄の死を、見届けなければならなかった。

弟として、家族として。俺は少し開いた扉の隙間から部屋の中を覗き込んだ。

兄は、俺の視線に気づいたのかこちらを見て何か口を動かしたが、注射されて途中で灰になって消えた。

何を言い残そうとしたのだろう..何が言いたかったのだろう。これから死ぬ自分に。

次は、俺の名前が呼ばれた..おそらくこれは年齢順に呼ばれているのだろう。

俺は扉を開け中へ入り、椅子に座った。

しばらくして研究員が俺に注射をするといい、注射された。

針が皮に触れた瞬間、俺は今から死ぬんだと自覚した。心臓が浮いているような苦しい感覚から一気に落ち着いてきた。

何らかの液体が自分の血液に注入されていくのがわかる。


あれ..まだ生きてるぞ。俺は目を開けて、自分の体を見る。灰になっていない..何も起こっていない。

研究員は驚いた顔で部屋の角に居てさっきは見えなかった博士が何か言わないか見ている。

その博士は..微妙な顔をして言った。

「..本来、灰化がしなかった人間は変形するはずなのだ..これは、私の想定外の事例だ..」

俺はその時、想定外という言葉から今からする選択を決めた。

想定外だったら、研究される。その研究というのは..このような恐ろしいことなのだろう。

俺はポケットからペンナイフを取り出し、椅子から飛び上がり走ってその研究員を刺した。

心臓でも腹でもなく、首の横の部分を刺し、手前に引き完全に頸動脈を掻っ切る。

殺した..いや、やり返した!

博士はどうやら足を負傷しているらしく、動けないが携帯で仲間を呼んでいる。

ここは無理に博士のほうを始末するより逃げたほうが最適だろう。

俺はその部屋にあった窓を拳で叩き割り外へ飛び降りた。


俺は..俺は何故ここにいる?

あの子供たちを置いて..なんで一人で逃げ出してきたんだ?

森だ、まわりは全て木で覆いつくされている。

足が強く痛んで、とても良い気分とは言えない。

俺は何故ここに..


俺は思い出すことを辞めた、自分勝手な自分をこれ以上攻めたくなかったからだ。

でも、自然に涙が出てきた。早く逃げなきゃいけないのに。

「ねぇ、貴方..困ってるの?」

俺は目線を上に上げる。

そこには、一人の少女が立っていた。まぁ、少女と言っても俺より三か四個上な程度だ。

「じゃあ私についてくればいいわ!」


「私のために、力を使わないか?」

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