企画入賞レビュー「知らぬが仏」

非常に珍しい「構造で読ませるホラー」作品です。
導入部はどことなく幼稚な語り手の言動にウンザリさせられるかもしれません。しかし、それこそが作者さまの仕掛けです。話が進むにつれて口調がみるみる変化していく様、それこそまさにこの作品における最大の見所なのですから。同じ一日の出来事です。それなのに、主人公は知恵の実を食したアダムかイブのごとく急激に賢くなっていき、頭の霧が晴れていくかのように伏せられた過去を思い出していくのです。
ふと気が付けば、思い付きで何となく行動する主人公が、ホラーの「とある一大ジャンル」でよく見かけるキャラクターとまったく同じ境遇であることに気付かされるでしょう。私はそこで手を打って喝采してしまいましたよ。
賢くなるということは必ずしも救いではありません。
記憶が伏せられているということは、もしかすると脳が思い出すことを拒否しているのかもしれません。それをあえて探り出そうとするのは、楽園を追放された頃からの「人間の原罪」なのかもしれませんね。

見せ方次第で王道の作品でもまったく新しいものへと仕立てあげることができる。
それをキッチリ証明してくれたこの作品こそ入賞でしょう。

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