非常に珍しい「構造で読ませるホラー」作品です。
導入部はどことなく幼稚な語り手の言動にウンザリさせられるかもしれません。しかし、それこそが作者さまの仕掛けです。話が進むにつれて口調がみるみる変化していく様、それこそまさにこの作品における最大の見所なのですから。同じ一日の出来事です。それなのに、主人公は知恵の実を食したアダムかイブのごとく急激に賢くなっていき、頭の霧が晴れていくかのように伏せられた過去を思い出していくのです。
ふと気が付けば、思い付きで何となく行動する主人公が、ホラーの「とある一大ジャンル」でよく見かけるキャラクターとまったく同じ境遇であることに気付かされるでしょう。私はそこで手を打って喝采してしまいましたよ。
賢くなるということは必ずしも救いではありません。
記憶が伏せられているということは、もしかすると脳が思い出すことを拒否しているのかもしれません。それをあえて探り出そうとするのは、楽園を追放された頃からの「人間の原罪」なのかもしれませんね。
見せ方次第で王道の作品でもまったく新しいものへと仕立てあげることができる。
それをキッチリ証明してくれたこの作品こそ入賞でしょう。
就職したての主人公が、ふと思い立っておじさんの家に遊びに行くお話。
ホラーでした。最後の、あの一気に突き放されるような締め方が好きです。反則気味のように思えるのに、でもこの結びがきっと一番怖い。実際怖かった。ホラーである以上怖さを優先するのが正義。
そして文章が好きです。死ぬほど好き。特に冒頭、「そういうのの帰りだった。」のとこのストンってなるリズム。いきなり心のど真ん中を鷲掴みにされて、そのまま一気に読みました。
文章そのものが面白いと、ただ文字を追うだけで「面白いぜポイント」がチャリンチャリン溜まっていくのでずるいです。アイスクリームの、普通のコーンに対するワッフルコーンの卑怯さです。
その文章によって軽妙に、でもそれ以上に丁寧に、日常やそこに繋がる過去やらをしっかり積み重ねた、その上でいきなり後頭部を殴りつけてくる極太のホラー。強烈でした。面白かったです。