現代の勇者たちに、さあ、最敬礼を。
- ★★★ Excellent!!!
「レンジャー!」
何度響いたろう。何度口にしただろう。そのたった一言に生き様が刻まれる。
彼女たちが、彼らが、生き抜いたその様が。這い上がってきた、その眼差しが。
筆者の得意とする小気味よいテンポで繰り広げられるコメディ要素は、
この作品では間違いなく一服二服の清涼剤だ。出会えると、心底ほっとする。
この物語は、戦いだ。彼女たちが挑む、本当の戦い。
私たち読者はその戦いに、追従する。できるのは、それだけだ。
コメディと銘打ってはあるが侮ってはいけない。その過酷さには、読者さえ油断できないから。
自衛隊。その先にある、更に過酷な訓練を経てやっと、一握りの精鋭に与えられる勲章と誇り、レンジャー。
主人公アキラの視点で語られる文字通りの「地獄」は生々しく、作中ではたった一人も余裕のある挑戦者はいない。
一人、またひとりと脱落する仲間。教官からの怒号。泣き言も恨み言も、許されない。信念だけでは立ち上がれない、まさに地獄だ。何度も眉をひそめ、唇を噛み締め、読むのがつらくなることもある。そんな、この世の地獄。
この世界は、チートが存在する異世界ではない。紛れもなく、どこかであるかもしれない現実。今も、この瞬間も血を吐くような思いをして、喉を枯らしている、顔も名前も知らない「彼ら」がいる。ここには、彼女たちが、いる。
現実だ。本当に、こうして歯を食い縛っている、ひとたちがいる。それほどの。
ここで確かに生きている。ここで確かに、高みを目指す彼女たちがいる。
私たちは息を止めて、その背中を追っていくしかできない。
なんでそんなに頑張るの。なんで諦めないの。なんでそんなに、命を張って。
勇者も、魔法使いも、お姫様もいない。
ただここには――その身一つと大切なものを背負って走る、人たちがいる。
それがどれだけ――こうして胸を熱くするだろう。
その生き様を見届けた時、じわり胸の奥に広がるものの熱さに、どんな感情を描くか。アキラは、ミズキは、レンジャーになれるのか?脱落するのは誰だ?
駆け引きなんて一切なしの90日、見え隠れする珠玉の人間ドラマ。
油断するな、声を落とせ、息遣いも気を抜くな。そしてきっと、あなたも叫びたくなる。現代の勇者たちに、さあ、最敬礼を。
「レンジャー!」