【書籍化】レンジャー・ガール!―女性自衛官・小牧陽は地獄を這い進む―(旧『答えはぜんぶ「レンジャー!」ですっ』)
綾坂キョウ
『答えはぜんぶ「レンジャー!」ですっ』(本編)
第一話 あたし、レンジャーになります!
1-1 落ちなければ始まれません!
全身が震えている。十メートル近い高さにいるあたしの身体を支えているのは、上下に張られた二本のロープをつかむ腕と、バランスをとっている両足。その両手両足も、朝からの激しい運動でぷるぷると頼りない。
なにより怖いのは――数秒後には、この支えすら、自分の意思で手放さなければならないこと。
あたしの腰には、ぎちぎちと痛いくらいに巻かれたロープ。両手を放して、もしこの腰のロープまで切れたら、外れたりしたら――あたしはこの高さからまっ逆さまだ。
ちらっと下を見ると、迷彩服に身を包んだ隊員たちがこちらを見上げているのが分かった。そのうちの一つが、やけに涼しい目をしていて。「あんた、飛べないの?」って訊かれてるみたいで。妄想かもしれないけれど、あたしはぎゅっと唇を噛んだ。
そして。
「レンジャー
「フォール!」という声が聞こえた。あるいは、あたしも叫んでいた。背中から頭をぞくりと駆け抜ける、しびれるような悪寒と、優しい浮遊感。目の前は、青い青い空。
ほんの、微かな一瞬だけれども。あたしは、たぶん。重力からすら、自由になった。
あるいは――自分から望んで踏み込んだ「地獄」に向けて、ただただ落ちただけかもしれないけれど。
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