一つの時代の、一方角の、語られない「魔王譚」

*2018年1月27日 読了して初レビューです

「魔王」と「勇者」、その王道たる関係性、テーマ、直球ファンタジーとしての大御所と言っても過言ではないだろう。
特筆すべきはタイトルを陣取る「へたれ魔王」、物語冒頭から読者は、「ああへたれなんだ」とインプットされる。
それは確かに間違いではない、それこそ作者自身の筆がたっぷり物語る。だが待ってほしい。それは本当に――

この物語には欠かせない魔王と勇者、だが「魔王」とは何なのか?
物語が進むにつれ登場人物が「当たり前のように」口にする、この国、世界の「神話」の本当の姿とは?
怒涛の展開と交差する人物模様、コメディ要素が強い背景で、気が付かないうちに入り込む違和感と、背筋に走る悪寒。
それは一体、いつからだ?

巧みに配置され、だが確かに踏み進めていける物語の真相。
確かな予感があったのに、いざ直面した時には息を飲む、後半に進むにつれそんな展開が息吐く間もなく続きます。
可能であれば、一気に読んで一気にそれを体験してほしい、そんなライトな顔した重厚ストーリーです。

「愛と絆と罵詈雑言のコメディ風ファンタジー!」――その意味を読み終えて、噛み締めてほしい。
「へたれ魔王は倒せない!」――それはどういう意味だったのか、確かめてほしい。

いつの間にか人物一人ひとりが愛しくて、たまらない。彼ら一人一人に、どうか望む未来を。
そう願わずにはいられない、一つの時代の、一方角の、語られない「魔王譚」でした。

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