世界に仇なす凶悪な魔王を、修行を積んだ正義感溢れる勇者が倒す――これがファンタジー小説の定石です。
ところが主人公となる勇者、こいつがとんでもない。
まず強い。すさまじく強い。血の涙もない勢いでバッタバッタと魔物を倒す。その強さ、まさに人外。
そして魔王。
これがもうひたすら可愛い。女の子と間違われるくらい可愛い。しかも絡まれても抵抗できないくらい弱い。
こんな二人が出会い、金目のもので釣られた主人公・リュースが魔王・アレフィオスを鍛えることになるという……とんでも破天荒な物語です。
しかし実はこの二人、それぞれに秘密を持ち、それが明らかとなるたびにどんでん返しが起こる!
終盤はどんでん返しに次ぐどんでん返しの繰り返しで、心臓が休まる暇も息つく暇もなく、気付けば一気に読み終えてしまいました!!
笑えるシーンは、たっぷりあります。
けれどそれに留まらず、物語を読む醍醐味である意外性、切ないまでの感動など心を揺り動かす要素が盛り沢山。
個性豊かな登場人物達の魅力も生き生きと描かれ、読み終えた後に彼らと共に一つの大きな冒険を成し遂げたような満足感に胸がいっぱいになる作品です。
短気で粗暴な主人公は魔王城にたどり着き、ついに「魔王VS勇者」の構図が見えてきた。ここまでは普通な展開。しかし! 魔王は迫りくる主人公に恐れをなして城から逃げ出していた! しかも置手紙で!
仕方なく町に戻った主人公は、酒場で何と魔王を助けてしまう。しかもその魔王の風貌は、少女と間違われても仕方がないほどのショタだった。しかも主人公は、魔王に頼まれて魔物軍の指導係りになる。日夜主人公から訓練を受ける魔王軍は、人間を追い返すことにも慣れてきた。
しかし、王家直属の騎士たちが魔王討伐にやってきて、主人公はピンチを迎えるのだが⁈
主人公と魔王の意外な関係性が明らかになり、この世界の創世神話が鍵となっているなど、意外性は盛りだくさん。しかも主人公は誰かに操られていた……。一体誰に? 本当の敵は誰か? 神話は神話のままなのか?
次々に展開する物語と、情報の駆け引き。
今までの異世界ファンタジーとは違った魅力に溢れるこの物語を、皆様も是非、ご一読ください。
魔王——それは数多の凶悪な魔物たちを圧倒的な力で統制し、世界を混沌とした闇で覆い尽くさんとする恐ろしき存在——
だと思うでしょ?
まさか、やってきた勇者に恐れをなして「探さないでください」って書き置き残して逃げた上、酒場で女と間違われてゴロツキに絡まれちゃうようなヘタレだなんて思わないでしょ?
あまつさえ、その勇者に自分の軍を訓練してもらうように依頼するなんて……
……と、そのまさかが起こってしまうのがこの作品です。
声高に主張したいのは、魔王アレフの可愛らしさ。
女性と見紛うほどの繊細な美貌に、虫も殺せぬような優しい心の持ち主である彼は、配下の魔物たちからアイドル並みの支持を得ています。
その気持ちメッチャ分かる。常にビクビクおどおど、母性本能がくすぐられるタイプです。
対する主人公・リュースは、賞金目的で危険な魔王城に単身乗り込み、強力な魔物たちを問答無用で蹴散らしてしまう、傍若無人な豪胆さ(?)と確かな実力を持った勇者。
物語はこの二人を中心に、コメディタッチで進行していきます。
非常に安定した読みやすい文章で、リュースの仲間たちやぼんくら王子の一行など魅力的なキャラクターも盛りだくさん。
思わずくすりと笑ってしまう掛け合いと、そこに挟まれるリュースの暗い過去や素性のエピソードのギャップに、気付けばすっかり惹き込まれておりました。
続きが楽しみな作品です!
第十四話までを読んでのレビューとなります。
「ごめんなさい。逃げます。探さないでください」という手紙から始まる物語は、昨今主流になりつつあるファンタジー作品の様に奇をてらったものの様に思えるが(とは言っても、自分があまりファンタジーを読まないので流行について行けているかは不明だが)、話を読み進めていく内に、昔ながらの丁寧なファンタジー作品の上に成り立っているコメディー作品である事に気付く。
そんな始まりなので、東の魔王ことアレフィオスを追う物語になるのかと思ったが、そうではない。アレフィオスは序盤ですぐに姿を現わすのだ。
そして勇者のリュースとその御一行の中の一員に取り込まれる。
作品の構造がステレオタイプな「魔王という敵を倒す」ではなく、「魔王を助ける勇者」という構造になる様に思えるのだが、作品内の王族の動きや、リュースとその姉的存在エリシアの過去、魔王という存在の秘密など散りばめられた伏線によってはストーリーはまた構造を新たにする予感がしてならない。
物語のジャンルにあるコメディーすら最後はひっくり返してしまうのではないかと思える作品で、これからの展開にも目が離せない。
最後に、文体や描写が丁寧で大変読みやすいのが良い。
しかしながら、一つの話内での視点の変更などがある所が、昔気質なもしくはライトノベルに慣れてない層には違和感を覚える可能性がある様に思う。
※追記
最後まで読んでの感想。
以前書いたレビューの内容の通り、コメディと言う枠内に収まらない作品に仕上がっている。
コメディからの落差のせいだろうか、登場人物たち一人一人が掘り下げられていく度に感極まってうるうるしてしまう。
ズルい。いい意味でだが、これはズルい。
ネタバレになるから詳しくは読んでみて欲しいのだが、彼らはこれからも成長していくのだろう。
その成長の中で、リュースやアレフィオスとその愉快な仲間たち(王族メンバーたちも)はまだまだ一悶着も二悶着もしていくのだろうなと想像して、それだけで笑えてしまう。
それは結局のところ、やはりコメディでもあり続けているからだろう。
*2018年1月27日 読了して初レビューです
「魔王」と「勇者」、その王道たる関係性、テーマ、直球ファンタジーとしての大御所と言っても過言ではないだろう。
特筆すべきはタイトルを陣取る「へたれ魔王」、物語冒頭から読者は、「ああへたれなんだ」とインプットされる。
それは確かに間違いではない、それこそ作者自身の筆がたっぷり物語る。だが待ってほしい。それは本当に――
この物語には欠かせない魔王と勇者、だが「魔王」とは何なのか?
物語が進むにつれ登場人物が「当たり前のように」口にする、この国、世界の「神話」の本当の姿とは?
怒涛の展開と交差する人物模様、コメディ要素が強い背景で、気が付かないうちに入り込む違和感と、背筋に走る悪寒。
それは一体、いつからだ?
巧みに配置され、だが確かに踏み進めていける物語の真相。
確かな予感があったのに、いざ直面した時には息を飲む、後半に進むにつれそんな展開が息吐く間もなく続きます。
可能であれば、一気に読んで一気にそれを体験してほしい、そんなライトな顔した重厚ストーリーです。
「愛と絆と罵詈雑言のコメディ風ファンタジー!」――その意味を読み終えて、噛み締めてほしい。
「へたれ魔王は倒せない!」――それはどういう意味だったのか、確かめてほしい。
いつの間にか人物一人ひとりが愛しくて、たまらない。彼ら一人一人に、どうか望む未来を。
そう願わずにはいられない、一つの時代の、一方角の、語られない「魔王譚」でした。