爽快な読後感と感動があります

主人公は誰もが応援したくなるような、明るく元気な女性自衛官です。憧れのヒーローに成りたくて、自衛官の中でも一部の精鋭しか参加を許されないレンジャー訓練に参加。返事は常に「レンジャー!」。待ち受けるは文字通り命がけの訓練と苛烈な理不尽。

3ヶ月の訓練を通して、バディとなるクールな女性自衛官との関係性の変化や、他の訓練生との軋轢、そして主人公の心の成長から目が離せなくなります。
登場人物も皆んな個性的で、凄く素敵でした。私は特に、旧知の上官が訓練時の鬼助教の立場から、時折素になってヒロインに声をかける時のギャップに萌えました。

少し調べてみましたが、作中で展開される訓練内容は実際に行われているものを基にしていて、恐らく文量と構成の関係で省略とデフォルメがあるのでしょう。訓練中の事故で命を落とされた方もいらっしゃる程に過酷で、参加前には家族に宛てて遺書を書くのだそうです。
本作は静岡県板妻駐屯地から富士の樹海で行われた訓練をモデルにしていると思われ、実在する組織をモデルにすることは、色々な考えをお持ちの方がおられます以上、表現についても相当の制約があったのではと推測します。また現実であるが故、訓練に命をかける行為そのものにおいても、人命の軽視に繋がりかねず手放しで賞賛することが難しくなります。そういった自衛隊が抱えるリアルの課題も作中では記者のインタビューの形で表現されていました。

自衛隊の中にはMOSと呼ばれる資格があり、レンジャーもその内の一つです。しかし、この過酷な訓練をやり遂げて資格を得たとしても給料が上がる訳でもなく、得られるのは胸に付ける徽章(きしょう)のみ。ですがだからこそ、そこには組織にとって強烈な尊敬の念と誇りが生まれるのかも知れません。
隊員達が葛藤や挫折を経て、レンジャーへたどり着くまでの過程を極上のエンターテインメントに昇華させたこの作品は文句なしに傑作です。

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