きみが好きだから監禁することにしました

七沢ゆきの@11月新刊発売

第1話 だってきみが好きなのに?

 気が付いたら、私はうす暗い部屋の中にいた。

 右足には鎖。両手首には手錠。首がひりひりすると思ったらそこにも首輪と鎖。

 そして、血かと思って一瞬息を呑んだ、左手の薬指に結ばれた赤いワイヤー。

 これだけはどこにも繋がっていなくて、中途半端な長さでだらりと床に垂れ下がっている。


 なにこれ……。


 慌ててガチャガチャ鎖を引っ張ってみたけど全然取れない。

 床から生えてる金属の杭みたいのに溶けてくっついてる。

 首輪もすごく固い革でできていた。ちぎろうとしたら私の指の方が痛くなった。


 なんで?なんでこんなことになってるの?

 怖い。怖いよ。


 てゆうか、私監禁されてる?ちょっと、ほんと、なんで?なんで?


 誘拐?でもうち別にお金持ちなんかじゃないし、意味ないよ?

 

 おかしいよ、私じゃなくたっていいじゃん。人違い?


 もうやだ、この鎖、なんでこんなにごついの?


 いろんな考えが頭の中で花火みたいに飛び散って、それを少しでも抑えようと私は深呼吸しながら、こんなことになる前までの記憶をたどっていく。


 覚えてるのは……放課後、部室でちいにゃんと話してて、顧問の椎名に「活動しないなら暗い道は危ないから早く帰りなさい」って部室を追い出されて……そうだ、そのあとちいにゃんと、やっぱ顧問の椎名は真面目過ぎてムカつくねー、美術部なんて内申対策の帰宅部みたいなもんなのにーってマックでグチってたんだ。


 それでさすがに遅くなったから帰ろーってなって……そのあと?


 私の家までもう少しのところ、人気のない普通の住宅街。そこを歩いてて。


 そのとき、チクッて、なんか、腕、に?


 はー、はーと自分の息が荒くなっていくのがわかる。


 そこから先が思い出せない。なんでこんなことになってるのか、いくら考えてもわからないよ……!


 怖くて怖くて、はっはっはっはっとどんどん息が荒くなっていって、もう息もできなくなりそうになったとき、突然、そのドアは開いた。


「椎名先生……?」


 開いたドアの向こう側にいたのは、私たちを部室から追い出した、顧問の椎名先生だった。


 相変わらず、黒い髪を真面目にダサくセットして、シャツのボタンも一番上まで止めてて、きっちりネクタイを締めたスーツを着てて、服装は部室から私を追いだした時と同じだ。

 それから、私たちに舐められがちな、あまり表情の変わらない童顔メガネの顔も。

 別に椎名先生は特別ブサいわけじゃないし、同じクラスにいたら「かわいー」なんて言われるかもしれない。スタイルだってちょっとガリだけど悪くない。


 けど、椎名先生は先生だから。


 それなのに私たちと同じくらいの年に見えたら、どうしたって「椎名www」みたいに呼び捨てにされたりする。


 でも椎名先生はそんなの気にしてないみたいだった。てか、どうでもいいみたいだった。


 私も一応『先生』はつけて呼んでたけど、椎名先生なんて空気みたいなものだった。

 

 男子が煽っても淡々と美術の授業をして、部活の時に部員が誰も来なくても、隅で自分の絵を黙々と描いてる、空気、もしくは喋る置物。


 そんな人がどうしてここにいるんだろう?


 純粋な疑問のあと、私ははっと思い当たった。


 助けに来てくれたんだ!

 危ないから早く帰りなさいって椎名先生言ってたもん!


 この誰だかわかんないクソ変態から!


 あ、でも椎名先生、ケンカ弱そうだから早く助けてもらわなくちゃ。

 誰だかわかんないけど、私をこんなにした奴が戻ってきたら先生なんか即殺だよ!


「先生、早く110番して!」


 でも、椎名先生は、私にはわけのわからないことを口にした。


「いやです。だってきみが好きなのに」


 ……は……?何言ってんのこの人……?

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