エピローグ

エピローグ 三日間を重ねて

 ――初期化しますか?


「Y」を選択するのは何度めか。新たにデータを読み出す時間が永遠にも思えた。

 かつて、混乱と騒乱と暗黒が国を分断し、多くの人命が失われ、技術や治安、衛生状態などが大きく後退した。アカリが生まれる前のことだ。生き延びた人々は過去という名の瓦礫を掘り、宇宙から送られる電力を用いて細々と暮らしている。

 それ以前、つまり瓦礫が瓦礫でなく、廃墟に生活の灯が輝き、高度な文明と科学技術の恩恵が人々を照らしていた頃には、人工知性が人の暮らしを助け、電子化された人々がコンピュータ上に再現された街に生きていたそうだ。

 夢のような話だが、その片鱗こそがいまの生活基盤だ。被害の軽微だった地域を中心に、昔を知る者たちによる復旧と復興が進められている。


 アカリが託されたのは、カード型の記憶メディアに保存された人工知性だ。お父さんとお母さんの大切な友だち、と母は蛋白石オパールの眼を細めていたっけ。

 けれど手に入るマシンではメモリが足りず、最小限のモジュールしか展開できない。対話も、文字によるやりとりがせいぜいだ。

 おまけに、端末の保存容量が少ないせいで三日ごとにデータを消去して初期化せねばならず、過去の記憶は薄っぺらなディスクに封じられたまま、在りし日を夢見ている。


『私はアカリ。初めまして』

『ハロー・ワールド! 初めまして、アカリ』


 それでもアカリはまっさらな彼とのおしゃべりチャットに興じる。止まった時計が、鼓動が蘇る日の到来を願う。


「あなたに会いたい」


 手を取りあって笑う、未来を視る。

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星に願いを、鏡に愛を 凪野基 @bgkaisei

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