最終話 あらやだ! 本当にいなくなっても良いのかしら?

「……てか、何でまだいるんですか?」

「へ?」


 へ、という言葉とセットで『屁』も飛び出す。どうなってんのそのシステム。


 テーブルの上には、お馴染みのトドボディ。言わずと知れたヨシエさんだ。


「何ていうかこう……さすがにお役御免じゃないですかね」

「何で?」

「何でって……。私結婚しましたし」

「そうね、おめでと」

「ありがとうございます――じゃなくて。え? だから何でまだいるんですか?」

「何でって、何で?」


 本当に不思議そうに首を傾げる身長14センチの小さなおばさん。


「ていうかそもそも、ヨシエさんって、何なんですか?」


 渋々新しいおせんべいを砕いて渡すと、「センキュー」とそれを上機嫌に受け取り、大口でばりっと齧ってから、ヨシエさんはもごもごもと「実はあたしはね」としゃべり始めた。実際は「ふぃふはあふぁふぃふぁふぇ」みたいな感じだったけど。


 ごくん、と飲み込み、緑茶を一口、げふっ、とげっぷのおまけつき。


「あたし、実はね」


 やけに真剣な顔だ。嘘くさい。こういう時は大抵嘘なのだ、この人(人?)の場合。


「みくちゃんの未来の姿なのよ」

「えっ、嘘! でもやっぱり?!」


 マジ? 私、最終的にこうなっちゃうんだ! もうショックで立ち直れないかも。


「うーそー」

「嘘かよ!」

「本当はね、孝輔こうすけのお母さんなの」

「また見え透いた嘘を」

「じゃあおばあちゃん」

「じゃあ、じゃなくて!」

「それじゃ、妖怪座敷おばさん」

「一番それっぽいけど……」

「ほんとは、シンデレラに出て来る魔法使い」

「いい加減にしろ、ババァ!」


 と声を張り上げると、ヨシエさんは、その小さいけれど大きなお尻を左右に振って、


「み~くちゃんがお~こったぁ~」


 とおどけた。


「でも、本当に良いの? あたしがいなくなっても。これから赤ちゃんとか出来たら……」

「うっ、そ、それは……」


 確かに、もしかしたら育児のアドバイスとかはしてくれそうだし……。くっそ……。


「そんなわけでもう少しここにいるわね! アーッハッハッハ!」

「ああもう、むっかつく! ううう、でも、よろしくお願いしますぅ……」

「それで良いのよ、アーッハッハッハ! アーッハッハッハ!」


 てぷてぷと小さな巨体を揺らし、ヨシエさんは上機嫌だ。

 さんざん高笑いをした後で、またよっこらせっと横になる。


 そしていつものように、ぶふぉ、とおならをし――、


「どれか一つは正解だけどね」と呟いた。

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ヨシエさん、うるさいです~小さいおばさんのいる生活~ 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

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