第36話 みくちゃん、お受けする
「みくちゃん、僕と結婚してください」
待ちに待っていたこの言葉を、私は、何だか映画でも見ているかのようにというのか、とても冷静に聞いていた。
何かまだうっすら煙い部屋で、コウちゃんのお尻の辺りでは小さいおばさんが何踊りかわからないけど、とにかく踊りながらはしゃいでて。
うっそ、こんなシチュエーションでプロポーズ?! って。
嬉しいよりもまず先に、そんなことを思った。
プロポーズって、夜景の見えるレストランで、ダイヤの指輪が入った箱をぱっかーんってしながら言うもんじゃないの? なんて。
いや、違うな。
それは『他の人のプロポーズ』だ。
私が、『森川
正直ムードも何もないような、これこそが私なのかもしれない。
幸せの形はひとつじゃない。
理想の結婚生活も、人の数だけある。
きっとコウちゃんは私を幸せにしてくれるだろうし、私もコウちゃんのためなら頑張れる気がする。
もしこの先、コウちゃんがハゲでメタボになっても、私はこの人をずっと好きだろう。いまのコウちゃんだって決してとびきりのイケメンじゃないけど、30年後、いまの写真を誰かに見せて「良い男でしょ?」なんて自慢したりもするんだろう。あの時のヨシエさんみたいに。
いまからそんな先のことまで見えてしまって。
「み、みくちゃん……? その、返事は……?」
しまった。まだ返事してなかった。
何だか泣きそうな顔をしているコウちゃんの手を握り返して、「こちらこそ、よろしくお願いします」と言うと、コウちゃんが「やったぁ!」とガッツポーズを決めるより先に、ヨシエさんが、
「よっしゃ! 今日はお赤飯だわぁ~!」
と叫んで、ぶほっ、と祝砲のようなおならをした。
それはいらなかったけど。
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