第35話 あらやだ! つべこべ言わず幸せにしなさいよ!
「みくちゃん、どうしたの? ――あ
私の隣にしゃがみ込んだコウちゃんが叫んだ。
えっ、何が起こったの?! とコウちゃんを見ると、彼はお尻の辺りを擦って「何? え? また痛い! 何?!」と首を傾げている。
何? っていうか、それはヨシエさんだ。
ヨシエさんがさっきのお見合い写真の角でコウちゃんのお尻を刺しているのだ。ちょっともうまじ止めろヨシエ。
「しゃきっとせんかぁっ、このヘタレぇっ!」
おいおいヨシエさん、あんたさっきまで腹抱えて笑ってたくせに何言ってんのよ。とりあえず、臀部への攻撃を中止しなさいよ。
「痛っ! 何だろ、虫? 虫かな?!」
そんなことを言いながら、コウちゃんは、お尻を擦っている。その手を避けながら、ヨシエさんが角でついついと刺しているのだ。ある意味匠の技。
「えっと、それでね、みくちゃん」
「え、はい。何?」
何かもう逆に冷静になるわ、こんな光景見せられたら。何かちょっと恥ずかしかったのも一気に吹き飛んだわ。
「あのね、この研修っていうのがね、一応、何ていうのかな、選ばれた人だけ行けるやつっていうかね」
「そうなんだ。じゃあ頑張って行ってきて。お土産は食べ物と嵩張るもの以外なら何でも良いから」
「う、うん、頑張る。いや、そうじゃなくてね。この研修が終わったら、僕、ちょっとだけ昇進するかもしれないんだ」
「すごいじゃん、コウちゃん。良かったね」
「ありがとう。それでね、ええと、だから――」
相変わらずお尻を擦りながら、コウちゃんは何やらもじもじしている。何だろう、刺激を受けすぎてトイレ行きたくなったのかな。大丈夫、ちゃんと掃除してるからさ、安心して行っておいでよ。
「ヘタレ! 頑張れ~!!」
ヨシエさんはもう止めてあげなってば。ここで出ちゃったらどうしてくれんのよ、もう。
と、ちょっと冷めた目でコウちゃんのお尻の辺りを見ていると、ヨシエさんがとどめだ、とばかりに大きく振りかぶって、ぐさっという音まで聞こえてきそうな勢いと共に彼のお尻を刺した。
「つべこべ言わずにみくちゃんのこと幸せにしなさいよ、
って、いままでで一番大きな声で叫んで。
ちょっと、マジうるさいから、少し声落としてもらえません?
って、さすがにもう言ってやろうかな、と思っていた時、コウちゃんが私の手をぎゅっと強く握ってきた。そして――、
「みくちゃん、僕と結婚してください」
え、いまそれ言うの。
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