第34話 あらやだ! みくちゃんの早とちりじゃないの!
「こ、コウちゃん……?」
「あれ? みくちゃん? どうして僕、こんなところに……?」
「いや、私もよくわかんないけど」
どうやらコウちゃんは無理やり連れて来られた形のようだ。アニメとかゲーム風に言えば『召喚された』という状態なのだろう。
「あたしよ、あたし! あたしのお陰なのよねぇ!」
テーブルの上ではヨシエさんがきゃっきゃとはしゃいでいる。
ほんと何なのこのおばさん。
「何かよくわからないけど……、急に来ちゃってごめん。僕、もう行くね」
と、去って行こうとするその背中に、私は思わず叫んだ。
「行かないで、コウちゃん!」
その言葉に、コウちゃんがくるりとこちらを向く。視界の隅では「言ったれ、言ったれ~」とヨシエさんが拳を振り上げているが、無視だ、無視。
「な、何?」
「その、い、行かないで、っていうのは、あの、メールの……、その、か、海外に、っていう……」
でも、良いんだろうか、私なんかが引き留めて。そんな権利があるんだろうか、私に。
「でも、もうチケットとっちゃったし」
「そ、そうだよね……」
「チームで行くから、僕だけ行かないわけにも……」
「そ、そうだよね……」
「ちゃんとお土産も買ってくるから」
「そ、そう……。ん? お土産?」
「うん。さっきもう1通メール送ったんだけど、見てない? お土産何が良い? って送ったんだけど」
「え? は? いや、見てない……けど? え? 海外行くって、何? 異動とかじゃなくて?」
「え? 違うよ? 3週間くらいの出張。向こうの支社で研修があるんだ」
「な、なぁんだぁ……」
へなへなとその場にへたり込んでメールを見ると、『台湾なんだけど、お土産は何が良い?』というメッセージが3分前に届いていた。
何よ私、馬鹿みたいじゃん。
脱力している私を見て、ヨシエさんは腹を抱えて笑っている。
「やぁっだもー、みくちゃんの早とちり~!!! おっかし~!! アーッハッハッハ!」
ヨシエ、黙れ。
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