絵画を修復することにより、ある種のエネルギーを得る、という世界。
その世界では絵画修復は単なる作業なのか、それとも――。
――やはり、パワーやエネルギーだけではなく、もっと根源的な、あるいはシンプルなモノのために、絵画は生まれたのではないか。
では、絵画とは、絵画修復とは何なのか?
本作は、そういう問いかけをしているのではないか、と思いました。
まだ最初のくだりまでしか読んでいなくて恐縮ですが。
絵画というのは、確かにパワーがあるものだと思います。
でもそれは、美しいと思えたり、怖いと震えたり、共感を覚えたりするからこそ、と。
それは、心が、命があるからではないか、と。
――本作は、その探求であり、かつ、探究の旅を描くものだと思います。
ぜひ、ご一読を。
これは、起きるかもしれない未来の物語。
未曾有のエネルギーショックによって価値観が逆転し、芸術や技術といったものが本来の価値を持たなくなった世界。ストーリーは、絵画修復家の主人公ルカが森の中で記憶喪失の少女と出逢うことから、大きく動き出します。
背景に横たわるのは「絵画をエネルギーに変換する」という新しい価値観。物語は現実世界の地理や歴史に沿っており、ルカの行う絵画修復の過程は魔法のようなめざましさがありますが、科学的な方法に則った現実的なものです。
そこに記憶喪失の少女ニノンが持つ「絵画の声を聞く」という不思議な力が相まって、どこか懐かしいジュブナイルファンタジーの色合いを魅せてくれるのです。
襲撃事件を切っ掛けに、奪われた絵画を追って旅を始めるルカたち。訪れた先で出逢う人々と、彼らが所有してきた古い絵画。一期一会でありながら、少しずつ仲間も増え、埋もれていた過去の縁が浮かび上がってきます。
どこか物寂しく退廃した世界の中で、彼らは何を見つけ、どこに辿り着くのでしょうか。
じっくり読めるSFファンタジー、ぜひご一読ください。
舞台はエネルギーが枯渇してしまった少し未来の世界。
人々の心を魅了する、あるいはほっとなごませる存在であるはずの絵画が、その芸術としての価値を失いエネルギー源として使われています。
コルシカ島で絵画修復家として働く少年ルカが、記憶喪失の少女ニノンと出会うところから物語ははじまります。
心から絵画という芸術を愛して、修復家として作品に込められた思いや願いと向き合っていくルカ。作中でその修復作業はまるで魔法のようだという台詞があるのですが、ルカ本人によればまったくの逆でそれは化学に近いものだとか。
物語のヒロインであるニノンもまた、絵画から声を聞くことの出来る不思議な力を持っています。
特異な力を持つヒロインの存在はファンタジー世界において珍しくない存在かもしれません。しかし、彼女の不思議な力に注視するよりも前に、ニノンの純真さとやさしさにまず惹かれるでしょう。
主人公やヒロインの他にも魅力的な登場人物がたくさん出てきます。
旅に加わるたのしい仲間はもちろんのこと、旅先で出会った人々もあたたかくてやさしいのです。行く先々ではちょっとした事件が起きてしまうのですが、絵画を中心にして四人は奮闘します(ルカとニノン以外の二人はネタバレとなるため、割愛しています)
人と人の繋がりを感じさせられる緻密に描かれたストーリー、登場人物たちの掛け合いもたのしく、そして忘れてはいけないのがルカとニノンの恋愛でしょうか。少年少女らしい甘酸っぱくてじれったい二人の恋に、ちょっとやきもきしてしまうかもしれませんね。頑張れ男の子!とつい応援したくなるはずです。
物語の導入。
とりわけ冒頭30枚には特別な意味がある。
まずは主人公が何者なのかをはっきりとさせ、主たる目的を提示する。
そして主要人物を登場させ、関係性のなかにそれぞれのパーソナリティを見いだせるよう活躍させる。
これがなかなか難しい。
ついつい世界観をムダに語ってしまいがちだが、本作はそうではない。
一話を読むだけでもどういう物語なのかが分かる。
これは素晴らしいことだ。
この世界では「絵画」がエネルギーを持っており、主人公親子はそれを修復するという特殊な仕事を請け負っている。
そしてコルシカという土地に身を寄せながらも、つねに自分はヨソモノなのだというルサンチマンを抱えているのがうかがえる。
それが本作の主人公・ルカだ。
伝統の街並みを舞台に、とある絵画の謎を追うミステリー。
本作はジュブナイルの未来を背負っている気がする。
完成させることが消滅することに繋がるというアンビバレントが、一筋縄でいかない作品のテーマ性を暗示しているのか。ものすごく込み入った、芸術に対する愛を表現しようと、作者は絵筆のように彩にみちた描写を丹念に記述していく。
時々見受けられる、ハッと息をのむような美しい文章と、重層的な人物像と物語とのレイヤーが交差し、情感豊かな世界を描いている。
しかし、作者の挑戦する題材の複雑さゆえに、細かな視点設定の荒さや、登場人物の欲求より、作者の都合が優先されていると感じられてしまうアクロバティックなプロット展開がたまに顔を覗かせるのが惜しい。ただ、そんなことを言えるのも、何物にも代えがたい突出した良さを持ってる作品だから言えることだけど。