第5話(えっ、魔法使い居んの?)
陥落した橋の前にハイパーディトゥ製の巨大な渡舟が来た。誰かが魔法で救急センターに伝えたのだろう。市民も数十人渡れずにいた。渡舟が岸壁に着くと、シナウスは車を徐行させて渡舟の台座に載せる。オウノ王子も馬車に戻り、騎手に指示を出して渡舟に乗った。
全員乗ったところで渡舟は対岸にゆっくりと出発する。オウノ王子は初めて見るハイパーディトゥ製のフロート(渡舟)に興味津々だ。
「シナウス殿、これはハイパーディトゥ製ですか?」
「そうだよ。半分は鉄でできてるけどね」
シナウスはオウノ王子が帯刀している剣をジロジロ見る。豪華なエングレーブが施された観賞用の物だ。
「私の剣が珍しいですか?」
「ちょっとね。その剣は鋼鉄製?」
「ええ、まあ」
「渡舟の台座におもいっきり突き刺してみ?」
オウノ王子は言われた通りに抜刀して、ガシン! 台座に剣は刺さらず、折れてしまった。
「なんと!」
「それがハイパーディトゥ鋼の強度だ。鋼鉄じゃ歯が立たない」
これはシナウスのイタズラだ。装飾された剣は趣味じゃない。
「凄い! 貴国の兵士はハイパーディトゥで武装してるのでしょう? 無敵だ」
「オウノ王子。この金属で造った車にソルトオイルを組み合わせれば、もっと凄くなると思わないか?」
「車ですか。私には良さが解りません。馬車で十分です」
「つまらん」
シナウスは少し気分を害した。それを察したオウノ王子は必死にフォローに入る。
「この車はいくらで売られるんですか?」
「2000万スリラだな」
「2000万スリラ!? 一般人なら豪邸が建てられますよ」
シナウスが設計したこの車は、フロントミッドに搭載されるV型6気筒3800ccのレシプロエンジンに組み合わされるツインターボは500馬力を絞り出す。アルミよりも軽いハイパーディトゥのボディー。〝贅肉〟を削ぎ落としたマシンは後輪駆動で、ファットタイヤを履き、抜群のトラクション。乾燥重量は500キログラムを切る。パワーウエイトレシオは1となるモンスターマシン。贅を極めたレーシングカーだ。
シナウスはオウノ王子にその説明をしようと思ったが車に対する温度差を感じた。
渡舟が対岸に着き、市民はぞろぞろと降りて目的地へ向かっていく。シナウスも車を運転して城に帰る。オウノ王子を乗せた馬車はまず、街のホテルに向かう。
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