第6話 そして。
その後の捜査で、
久世麗は白木が以前勤務していた学校の教え子であり、美しい久世麗に対し、白木は憧れのような感情を抱いていたという。
しかし、純粋な憧れは次第に
これは捜査の過程で初めて明らかになった事実であるが、久世麗にはオカルトマニアとしての一面があり、SNS上にはオカルト話用の個人アカウントを有し、都市伝説の知識に明るかったそう。ファンではなく、元担任としての観点から、白木はそのことを知っていたのだろう。
SNSに頻繁に映り込む漆黒婦人の存在が久世麗にとって、一人の少女として恐怖の対象だったのか、オカルトマニアとしての好機の対象であったのか、それは定かでないが、いずれにせよ、漆黒婦人が彼女の中で存在感を発揮していたことは間違いない。気をよくした白木は頻繁に写真へと写り込み、よりいっそう漆黒婦人として自身の存在をアピールし続けた。これが、久世麗の周辺に不審者が頻出していたことの真相だ。
だが、突如として久世麗は非業の死を遂げた。憧れの存在を喪い失意のどん底にいた白木が次に目を付けたのが、久世麗と似た雰囲気を持つ彼女の熱心なフォロワー、自身の教え子でもある小町結であった。
久世麗の時と同じ方法で自身の存在をアピールしていこうと考えた白木であったが、恐怖を感じた結はSNSの更新を中断。結果、白木は自身の存在をアピールする機会を失い、漆黒婦人の恰好で結に直接襲い掛かるという暴挙に出た。
逮捕後、白木は素直に取り調べに応じているが、一部犯行を否認しており、慎重に裏付け捜査が進められている。
〇〇〇
「大事に至らなくて良かった」
「頭部からの出血は派手だからね」
結は頭部の負傷で入院した陸人の病室を訪れていた。幸いにも命に別状はなく、検査の結果、脳にも異常は見当たらなかった。重傷に至らず済んだのは不幸中の幸いだ。
結も
「助けてくれてありがとう。陸人がいなきゃ、今頃どうなっていたことか」
「一応はボディーガードだからね。それに、一人のオカルトマニアとして、都市伝説を犯行に利用しようとする手合いを許せないという気持ちもあった」
照れ臭いのか、陸人は結から視線を逸らそうとするが、頭部に痛みが残っており上手くいかず、結局は顔を逸らすのを諦めた。
〇〇〇
「転落時の状況から久世麗は何者かに突き落とされた可能性が高い。いい加減に認めたらどうだ?」
「あれは僕ではありません。憧れの対象を殺害してしまっては元も子もないでしょう」
刑事からの取り調べに対し、白木は一切目を逸らさず、淡々と言葉を返していた。
漆黒婦人の服装で二人の女子高生の周辺に出没していた事実は認めた白木であったが、肝心の久世麗の死や、一部の写真は自身の仕業ではないと、一貫して供述していた。
「少しいいですか」
別の刑事に呼ばれ、刑事は席を立った。
「……白木のアリバイの裏が取れました。久世麗の死亡時刻に白木は、窃盗事件を起こした生徒の身元引受に立ち会うため、他でもないこの警察署を訪れています。アリバイは完璧です」
「……何だと」
「それに加え、久世麗の美容室帰りと、小町結がショッピングモールにいた時刻にも完璧なアリバイがあります」
まったく予想だにしていなかった展開に困惑が広がる。
「……白木、お前の犯行でないというのなら、一体誰の仕業なんだ?」
「……ひょっとしたら、漆黒婦人の仕業かもしれませんよ?」
「ふざけているのか?」
「滅そうもない。ただ、僕に漆黒婦人の都市伝説を教えてくれた人が言っていたんだですよ。噂は独り歩きする。それは一般的には
〇〇〇
陸人の見舞いを終えて帰路についた結は、通知音を聞き鞄からスマホを取り出した。どうやら友人の
一連の騒動でSNSからしばらく遠のいていたが、これでまた安心して再会出来そうだ。溜まっていた有希の投稿を確認してみようとすると、
「えっ?」
有希の投稿した写真を見て結は絶句した。自宅のベランダから写したと思われる風景写真の中に、黒衣と女優帽を身に着けた漆黒婦人のシルエットが確認出来た。現在、白木は勾留中の身。この漆黒婦人は白木ではない。
嫌な予感がし、結はすぐさま有希のスマホへと発信した。たまたまそういった服装の人物が写り込んだだけならばよいが。
『どうしたの、結?』
「有希、投稿を見たんだけど、変な人が写っていない?」
『変なって?』
「漆黒婦人」
『もう、冗談はやめてよ。白木先生は捕まって、事件は無事に解決でしょう』
「……だよね」
異様な事件に巻き込まれ、神経質になっていただろうと結は自分を
前に陸人が言っていた。一度なら偶然、二度目以降はだんだんと必然へ近づいていくと。
たった一度のこと、偶然に違いない――
いや、本当に一度目だろうか?
「ねえ有希。ショッピングモールで私の後に、続けて有希のスマホでも写真撮ったよね?」
「うん、あたしもあの日写真を撮ってそのままSNSに上げたよ。今になって思えば怖いよね。後ろに漆黒婦人の恰好をした白木先生が写っていたなんて」
悪い予感が加速していく。今回のことは一度目ではない。二度目だ。
「今どこ?」
『家にいるよ。写真を撮ってそのままベランダ……えっ、誰?』
突然、電話越しの有希が困惑に声を上ずらせた。
すると突然、第三者の声が電話越しに結の耳へも届き、
『アナタ、ワタシノコノミ』
『……い、嫌……来ないで』
「有希、どうしたの有希!」
電話越しに必死に呼びかけるも、有希の意識はすでに、電話越しの結よりも、目の前に迫った恐怖の方へと向いていた。
『漆黒――いやあああああああああああああああ――』
「有希! ちょっと有希!」
数秒のタイムラグの後、固い物が地面へ叩きつけられたような音を拾った瞬間にスマホが破損。通話は強制的に断ち切られた。
了
漆黒婦人がやってくる 湖城マコト @makoto3
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