バックヤード

 今日も『バイト』を終えた糺は店の奥バックヤードから店に戻るなり、カウンターで辞書のように分厚い本を読む栞の前に陣取った。


「飴使うならなんでボク達のこと説明したんだよ?」


 糺が頬杖をついて言うと、栞は顔を上げてにこりと笑った。


「使わない方が良かったですか?」

「……そういうことじゃないけど」

「彼女は綴木さんのお友達でしょう? ですから例え忘れてしまうことでもちゃんとご説明したかったんです」

 栞の言葉に糺は不服そうに「ふーん」と唸った。

「綴木さんの『バイト』のように誰にでも大なり小なり秘密はあります。誰かを守る為や傷つけない為に持つ秘密だとしても、仲が良い相手ほどそれを話してもらえない寂しさというものはあるんですよ?」

「でもボクの『バイト』はいくら仲の良いクラスメイトでも絶対打ち明けられないよ」

「分かってます。でもね、少しの間だけでも秘密を共有できたでしょう? 話せてどうでした?」

「あ」

 栞の言わんとするところに気づいて、糺は栞の優しさに思わず笑顔になった。


「綴木さんがお好きな小説、あの物語の主人公は男の子ですけど綴木さんに似ていますよね? 高校生が刀や銃を手に世界を守るお話です。あの小説の感想を通して武器の話もお友達とできますよね? 小説って非現実的な世界を共有するにはうってつけのツールだと思いません?」

「だからあの本を勧めたのか?」

「私はその人にぴったりの本を紹介するのが得意なんです。だって私は……」

 そう言って栞は店内を見渡すようにして笑った。


 そんな栞を糺は尊敬して止まない。

 きっと栞の頭の中にはこの書店の本全てが入ってる。


 それにしても。

 栞にはなんで本の虫が寄りつかないのか。

 糺はいつも不思議に思うのだった。

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ALBA 紬 蒼 @notitle_sou

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