出会ウ

 案の定、私はすぐに糺の姿を見失った。


 そこで鞄からスマホを取り出す。

 糺のスマホにこっそり待ち合わせアプリマッチーを入れておいたのだ。

 勿論、GPSの設定もオンにしてある。

 これで糺の居場所が簡単に分かるはず。


 アプリを開くと地図上にニッコリマークが表示された。

 それが待ち合わせ相手がいる場所だ。

 待ち合わせ……ではないけど、これで糺の居場所はバッチリだ。


 だが、ニッコリマークは動かない。

 つまり移動中ではないということであり、そこがバイト先だということだ。

 私の現在地からそう遠くない。

 でも、場所は住宅街のど真ん中。

 そんなところに本屋さんがあるとは知らなかった。


 怪訝に思いながらもとりあえずその場所を目指して自転車を走らせる。

 目的地らしき場所の周辺で自転車から降り、スマホをもう一度取り出して確認する。


 この辺、だよね?


 周囲を見渡してみるけど普通の住宅が並んでるだけでお店らしきものは見当たらない。

 誰かに訊こうかと思った瞬間、ふとあるの家の表札に目が留まる。


「……書店?」


 蔦が絡まる古びた洋風の家。

 その家のアンティークな看板は文字が掠れてて読めなかったけど、かろうじて『書店』という文字だけは読めた。

 どこからどう見たって本屋には見えなかったし、一見さんお断りといった雰囲気で営業しているのかどうかさえも怪しい。

 入るのを躊躇っていると、ドアが開いてエプロン姿の若い女性が現れた。


「あら、お客様? 中へどうぞ」


 優しそうに微笑む女性はどうやら店員さんのようで、中へ促されたからには断りづらかった。

 一歩店に足を踏み入れると、書店特有の匂いが鼻を突く。

 中は意外と広く、たくさんの本棚が整然と並んでいた。


 ここが糺のバイト先?


「どんな本をお探しですか?」

「い、いえ。あの……さっきここに女の子が来ませんでしたか?」

「女の子? もしかして綴木さんのお友達ですか? どういったご用件でしょう?」

「ちょっと話したいことがあって……」

「ごめんなさい。今、急ぎのお仕事を頼んでるものだから、終わるまではバックヤードから出られないんです」

 本屋で急ぎの仕事って何よ? と思ったけど、なんとなく聞けなかった。


「そうだ、せっかく来て頂いたのだから何か本をプレゼントさせてください。私、その人にぴったりの本を見つけるのが得意なんです」

「い、いや。私、本はそんなに読まないので」


「大丈夫。そんな方にもお勧めできるものはあります。まずは短編集なんてどうですか?」

 短編だろうが何だろうが、私の場合読書は基本漫画だ。

 小説といったってライトノベルなら読めるけど、ここにそんな本があるとは思えなかった。

 古文書みたいなものが出て来たって不思議じゃない雰囲気がある。

「確かこちらの棚にお勧めが……」

 言いかけたところで店の奥から聞き慣れた声がした。


しおりっ! 一匹逃げたっ!」


 その声に店員さんが慌てた表情になり、「糺さん、今はダメですっ!」と叫んだが、駆け込んで来た糺と私は鉢合わせしてしまった。

 糺の手には変わった刀があって、しまった、という表情をしていた。


 本屋で刀?

 一体、どういうこと?

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