消エル
「よろしかったらどうぞ」
帰り際、店員さんに一冊の本を手渡された。
薄くて表紙にはかわいいイラストがあって読みやすそうな小説だ。
そう言えば、本をくれるって言ってたのを思い出す。
「綴木さんもこの小説がお好きなようなので、読んだらぜひ感想を綴木さんと語ってみてくださいね。それと、うちは書店です。いつでもまた遊びにいらしてくださいね」
優しそうな笑顔で「はい」と飴も差し出された。
「甘い物は幸せにしてくれますから。では、お気をつけて」
手を振る店員さんに私も手を振り返し、書店を後にした。
すっかり日は暮れてたし、迷路のような住宅街だったけど、その帰り道は糺も一緒だったから迷うことなく安心して家に帰ることができた。
家に帰ってもしばらく今日の出来事が頭から離れなくて、明日普通に学校で糺といつも通りに接することができるか何度もシミュレーションした。
そして、ベッドに入った時、ふと貰った小説を開いてみる。
文字も大きくて見やすく、確かに私でも最後まで読めそうな気がした。
最初の一行を読んで、もし『本の虫』に寄生されたらどうしよう? と考えてしまった。
不安になったらその先が読めなくなった。
「あ、そうだ」
ふと貰った飴のことを思い出し、口に放り込む。
何味だろう?
よく分からなかったけど、とても甘くておいしくて不思議な味。
フルーツ系かな?
フルーツパフェとかなんか凝った味かな?
何の味か考えていると、ほんのり幸せな気分になってきた。
「本、読も」
なんだか急に本が読みたくなって、貰った小説を最後まで一気に読んでしまった。
読み終わってスマホに表示された時間を見、「ヤバッ」と急いで寝た。
「おはよっ」
「セーフッ」
翌朝、遅刻ギリギリに教室に滑り込むと友達に笑われた。
遅刻魔の糺の方が先に席に着いていたし、目の下にクマを作ってたからだ。
「寝不足?」
心配そうに声を掛けられ、昨日貰った小説全部読んじゃった、と笑うと糺も笑った。
「あの小説、武器の描写が良くてさ、ボクも好きなんだよね。面白かっただろ?」
「武器のことはよく分からないけど、面白かったぁ。あんなにハマるとは思わなかったよ。糺、本ありがとね。ドタキャンのお詫びも悪くないね」
「あ、うん。今度はちゃんとカフェに付き合うよ」
糺はそうすまなさそうに笑った。
「そういえば、貰った飴もおいしかったけど、あれって何味?」
「さあ? ごめん、ボクも人に貰ったから知らないんだ」
ごめんね、と繰り返した糺の顔はどこか寂しそうに見えた。
「そこっ、静かにっ。ホームルーム始めるぞ」
担任の先生が入って来るなり、注意されてしまった。
「じゃ、早速今日カフェに行こうよ」
こそっと糺を誘う。
「いいよ、もちろん」
糺が同意する。
いつものようにまた『バイト』って断られませんように。
それにしても……糺のバイト先はどこだろ?
未だにそれは分からないまま。
いつか、話してくれる日が来るといいのだけど。
ああ、そうだ。
そう思ってスマホを開くとなんだか同じことを前にもやった気がした。
待ち合わせ場所の履歴を開くと学校の近くが登録されてた。
これってどういうこと?
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