我ら《悪の掟》の前に、悪は無し。

皆さんは正義と悪、どちらにあこがれますか?
私は悪です。

死んだおじいちゃんから託されていたVRゴーグルと指輪。女子中学生麻央がそれを装着すると、なんと悪の首領アーク・ダイオーンになってしまった!?
構成員である怪人たちの統率をすることになった麻央は、役目を引き継ぎ二代目となるが……。

そんな導入から始まる本作。
正直、「下町を舞台に怪人を率いる悪の首領二代目を襲名した女子中学生が奮闘する」というだけで私の中ではほぼ百点満点です。
下町が舞台のゆるめの正義vs悪は昔から存在するものの、こんなところでちゃんと新しい時代の作品が作られていたのだなと感じられる作品になっていました。舞台も高齢化が進んだ下町だったり、VRアバターというアイテム、悪としてのあり方、現代的なニュース、そして”なんかありそう”な正義の味方。
悪の掟は理想論なのかもしれませんが、良い意味で子供向けのせいか、そのへん安心して読めるというか、言ってしまえば余計な水を差されることはありません。ある種の希望すら感じる勢いは、久々の感触でした。
やはり物語において世界を変える役目を持っているのは少年少女だと思わされる。

さて、本作にはVRが出てきますが。
読者側にも存在するであろうVR=バーチャルリアリティという固定観念を利用されたのもだいぶ好感触です。VRじゃないというのは何となく想像がつくものの、驚く主人公を見ながらニヤッと出来ることでしょう。

また、アーク・ダイオーンの姿になった途端、口調が悪の首領っぽくなるのもいい。
こういう口調はわざとらしくなると小説の中で浮いてしまう事も多々あるのですが、この作者さんはそのへん上手いなと思いました。

気になったところは、はじめの導入が丁寧なぶん、早くVRゴーグルしないのかな、と急かしてしまったり、下町の皆さんにももう少し個性というか下町根性が見られても良かったかな、とそれくらいですかね。このあたりは単純に好き嫌いも混ざるかと。

それにしても、久々に良い悪の首領モノを読ませていただきました。
異形の隣人達に出会うのに良くも悪くも異世界に行ってしまう(ように思える)昨今、現実のすぐ近くに彼らのいる世界観も良いものです。
この調子でアーク・ダイオーン様には世界を悪で染めていただきたいものです。

では、またお会いすることを願って。