第2話 騎士の少年クロム・ハラウト

 それはいきなり甲板に飛び込んできた。巨大な翼をはためかせ、凄まじい速度で一直線に。


「な、なんだぁ?!」


 轟音と共に揺れる船体にしがみつきながら。ラインバルトは泡食った。

 ぐらりと揺れた船体だが何事も無かったかのように体勢を直す。この帆船は強力な魔法と最新鋭の錬金術によって建造された船。生半可な衝撃では傷一つつかないどころか転覆すらしない。


 慌てて衝撃が降りた方を見やるラインバルト。

 そこには大きな翼を羽ばたかせ、鎮座する一匹の蒼き飛竜と。


「よっしゃ。何とか着地出来たぞエリス!」


 そこに騎乗する一人の少年がいた。


「クロム、焦りすぎですよ!」


 凍てついた水晶のような蒼色の身体つきの飛竜がうんざりと騎乗する少年を嗜める。何故だろうか? この飛竜の周りは少しだけ冷たかった……。


「貴方は船員さんですか? 良ければ船長さんと話がしたいのてすが……」


 飛竜から飛び降りて。『少女を横抱きした』少年がラインバルトに尋ねた。頬ぐらいまでに伸ばした緑髪の精悍な顔立ちの少年で。右手の甲に『翼ある太陽』のアザがあるのが印象的だ……。


「い、いや……俺が船長だ……」


 気後れしながらも、ラインバルトは何とか返した。


「そうでしたか。これは失礼致しました。私は『クロム・ハラウト』。旅の騎士です、そしてこちらは氷竜アイス・ドラゴンの『エリス』です」


 生真面目に自己紹介をするクロム・ハラウト少年と。


「クロムが焦って突撃してしまい申し訳ありません。私は氷竜のエリスと言います」


 こちらも生真面目に名乗るエリスだった。


「あ、あぁよろしく。俺はラインバルトだ」


 その生真面目振りにやや気後れしながらも、ラインバルトも何とか挨拶する。


「ありがとうございます。ところでご相談が――」


「ラインバルトさま! 何ですか今の衝撃は?!」


 彼――クロムの相談を遮るように、船室からハルカちゃんが飛び出してきた。


「お騒がせしまして申し訳ありませんお嬢様。私の名前はクロム・ハラウト。今は海で浮かんでいた少女の為に医者か白魔導士を探している最中でして……」


 少女を抱き抱えたままで。クロムは扉から飛び出してきたハルカに一礼した。


「白魔導士ですか?! それなら私は白魔導士です!

 ラインバルトさま! 魔法を使っても大丈夫でしょうか?」


 ハルカの頼みを受けて、


「良し。任せた」


 ラインバルトは許可した。もっともな話。許可しなくてもハルカは自らやるだろうとは思うが……。


「そうでしたか。ではそこに横たえますので施術をお願いいたします」


 クロムはゆっくりと抱えていた少女を降ろした。


 綺麗な少女だ。頬まで伸ばした椿の花みたいに紅い髪に整った魅力の、十五歳くらいの少女だった。


「白魔導士が居て良かった……このまま意識が戻らないかと心配だったからね……!」


 ほっと一息つく、クロム。安心したからか、瑞々しく少年らしい地金が言葉に滲んでいた……。


「……あら? この方……?!」


 早速回復魔法を使っていたハルカが、魔法を中断して顔をしかめた。


「どうした? ハルカ?」


 彼女が意識の無い少女に対して魔法を止めるなんて珍しい。ラインバルトも彼女らしくない行動に疑問を持った。


「皆さん、少しだけ私の話を聞いていただけませんか?」


 ハルカは立ち上がり、二人と一匹を見回す。


 その時見えた困惑の眼差しを受けて、ラインバルトもクロムもエリスも従った。

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