第5話 神の力を持った騎士
「クロム! ちょうど良かったです!! この船を狙う船団がやってきました!!」
水柱の上がる海上を睨んでいた氷竜のエリスが飛び出してきたクロムに叫ぶ。
慌てて飛び出してきた二人は現状に絶句した。
何故なら遠くの海上から。船団がこちらに砲撃を仕掛けていたのだから……。
「あの、ラインバルトさま……私達って何か海賊や軍艦に狙われるような事しましたっけ?」
おずおずと尋ねるハルカ。
「……見に憶えが無いな」
そんな彼女に眉根を寄せて顔をしかめるラインバルトだ。確かにこの船は交易品を積んで旅する貿易船。狙われる可能性は多いだろうが……まだ始めたばかりで品物なんか積んでいないのだ。
「相手が知らないで狙っているのでしょうか……?」
口元に手を当て冷や汗をかきながら。ハルカは水柱が立ち昇る海上を見渡す。
「そりゃ困るな。言っても聞かねーだろうし……」
頭を抱えて呻くラインバルト。
「なら私が追い払いましょう」
刹那。クロム・ハラウト少年が挙手した。
「え? 良いのか?」
驚愕するラインバルト。
「……この船が襲われる心当たりは私が知っていますが……説明は後に致します。この事態に対して責任がありますので私にあの船団を駆逐させて下さい」
必死に弁解するクロム。それを見て二人は何か言いたい事はいっぱいあったのだが……。
「判った。任せる」
ラインバルトは彼の頼みを聞き、ハルカも同意と言いたげに頷いた。
「ありがとうございます! エリス、追い払うぞ!!」
クロムはそう叫び返して氷竜の背に騎乗すると。
「行くぞ!!」
掛け声と共に右手を掲げた。
刹那。右手のアザが輝き眠る力を呼び覚ます。輝きは光の粒子に変わり彼とドラゴンを包むと――。
漆黒の鎧姿と
「エリス。攻撃してくる船は何隻だ?」
羽ばたき飛び立つエリスに尋ねるクロム。
「現在確認出来るのは四隻です」
「よし。一気に肉薄して仕留めるぞ!!」
まっすぐ船団を見据えるクロム。
「了解です」
命を受けたエリス。銃弾よりも速く船団向かって突撃する。
迎え撃つ船団からは弾幕……とは程遠いが砲弾が着水して水柱をあげている。
クロムとエリスはその間を急旋回にしてかわし。
一旦翼に力を込めると、そのまま羽ばたき最大速度まで加速した。
海面すれすれを滑空してくる彼らを当然砲弾が狙撃のように狙ってくるが……。クロムとエリスは縦に回転し錐揉み状態で加速すると、砲弾の中を抜けて更に肉薄する。
「ほい、とーちゃく!」
船団の右から二隻目の船、その甲板に降り立ったクロムは肩にハルバードを担いで呟く。
「くそ! 海賊が乗り込んで来たぞ! 迎え撃て!!」
隊長格の
「海賊はどっちだよ……」
クロムは呆れ果てた様子でため息をついた。
「まぁいいや。とにかくお前らちょっと静かになってもらうぜ」
ひゅんひゅんと斧槍を回して肩に担ぐクロム。戦闘中だからかちょっと口調が荒く感じた。
「
戦士の一人が舶刀を抜き放ち答える。
「騎士侯爵?
……ふーん。さてはお前らエステリア帝国の騎士団連中だな?」
うっかり飛び出た上官への問いかけを聞き逃さずに。クロムはにやりと笑う。
「くそ! 撃て! 迎え撃て!!」
身分がばれ青ざめた隊長格が命令を下す。近接戦闘の得意な者は剣を抜き、狙撃の得意な者はピストルやクロスボウを構え戦おうとした瞬間。
クロムの姿が、消え失せた。
「は……?」
一瞬全員が呆気に取られて。
その時には。
皆が吹き飛ばされていた。
「ぎゃああああっっ!!」
絶叫しながら甲板の縁にぶつかる戦士達。全員身体を強打しすぐには立てないご様子だ。
「アバスを知ってんなら話は早い……僕の槍は力の塊だから伸縮自在だぜ」
少年騎士がにやりと笑い。漆黒の斧槍を構えた。
うぐ……っと呻く確か騎士侯爵とか言われていた奴。すっかり引けた腰で後退りつつ、
「死ねや!」
傍に落ちてたピストルを構えて撃ち込んできた。
しかしクロムは単に左に首を傾けただけでかわして。そのままブーツの靴底を顔面に叩き込んで黙らせる。
「まぁ後でな。残りの船を黙らせておかないとちょっと厄介だからな」
気絶した隊長格を捨て置いてクロムは船の舵輪とマスト、それから甲板上の大砲達を叩き壊す。
そしてそのままエリスに飛び乗り次の船へと一直線に翔んでゆく。当然砲撃は続くが当たりはしない。
次の船に乗り込んだクロムは同じように船員を倒し舵輪とマストと大砲を破壊し。全ての船を同じように無力化した。
そしてエリスの背に飛び乗ると、
「よし。撤収するぞエリス!」
エリスに頼み上空へと舞い上がるクロム。
追撃は来ない。重傷を負った彼らにはクロムを追撃する余力等無かったからだ。
そのまま上空から下降。水面すれすれを滑空するエリスとクロム。
「何とか無力化させました! 早く船を出して下さい!!」
こちらの船に近づいた彼は全力で叫ぶ。
「ありがとう早く飛び乗れ!!
――ハルカちゃん!!」
ラインバルトの叫びに、
「白露よ集え、迷宮を築け。彼の者達を永遠の迷いに導け」
ハルカは間髪入れずに濃霧を発生させる魔法を創り出す。その瞬間、クロムとエリスも甲板に着地する。
「進路はどうしますか船長!」
ハルカの問いに、
「風と同じ方向に進路を!! とにかく全速力でここから離れろ!!」
ラインバルトは全力で命令を下す。
「了解です船長!!」
すぐさま舵輪に向かうハルカと帆を動かすラインバルト。ハルカの操舵に従い船は帆に受ける風と同じ向きに回頭し。そのまま全速力で海を駆けてゆく。
「私も手伝いますよ!」
クロムも力仕事を買って出る。
「それなら頼む! 俺の要求通りに動いてくれ!!」
その彼を快諾したラインバルトだった。
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