第3話 『ゴースト』たそがれの姫軍師

「ゴースト?」


 ラインバルトの疑問に。


「はい。彼女はゴーストです」


 ハルカは布団代わりの彼のコートを被せた彼女を指さし答えた。


「ゴースト……ってな何だいハルカちゃんよ?」


 ラインバルトは魔法の知識は無い。だから素直にハルカに尋ねた。


「ゴーストというのは、この世界に存在する魔力に残留思念が結び付いて起きる現象です」


 ハルカもまた、丁寧に説明を始めた。


「この世界には魔力という力が普遍的に存在しますよね」


「あぁ」


 ハルカの説明に相槌を打つラインバルト。


「魔力というのは可能性の力。選ばれなかった力とも謂われています。それらを集めて色んな奇跡を起こすのが、私達『魔法使い』なのですが……たまにとても強い残留思念の残る場所に大量の魔力が集まると、人間に良く似た姿を取る事があるんです」


「それが、ゴーストですか」


 クロムの問いに、


「はい」


 ハルカはしっかりと頷く。


「……つまりハルカちゃんよ。この娘さんはゴーストって奴で人間じゃないって事で良いのか?」


「はいそうですラインバルトさま」


 ハルカはそう答え、


「……ゴーストである彼女には心残りが何かあるという事です。その心残りを解決すればゴーストは大丈夫なはずですよ」


 膝をついて彼女に回復魔法をかけ続けた。相手がゴーストなのだから魔法を行使しなくても良いだろうに……それでも心配なのだろう。ハルカは集中して魔法をかける。


「……ぅ」


 その時ぴくりと。横たえた少女が眼を覚ます。


(……変わった見た目の娘さんだな)


 むくりと上体を起こした彼女を見て、ラインバルトの第一印象はそれだった。


 椿の花みたいに紅い髪、夜のような黒色の右目と『黄昏色の左目』というオッド・アイの美少女さんで。どことなく雰囲気が彼女――如月ハルカにそっくりだった。


「……『たそがれの姫軍師』さま……? まさか……? え? 冗談ですよね……!?」


 だが彼女の容姿を見て、一番動揺したのがハルカだった。何度も何度もあり得ないと、青ざめた顔を左右に振る。


「ここは……どこですか……? そして貴女はどうして私の通り名を知っているのですか……?」


 そんなハルカに対して首を傾げながら尋ねる彼女。


「え……? で、ではやはりたそがれの姫軍師、『逢魔椿おうまつばき』さまのゴースト……ですか?!」


「お、おい? どうしたんだハルカちゃん?」


 あまりに動揺しているハルカに話しかけるラインバルト。


「私は……あそこに、行か、ない……と……」


 その瞬間。立ち上がりかけた彼女がふらりと倒れた。


「あ! また倒れちゃいました!!」


「任せろハルカちゃん! ……女性だしどこ持って良いのかは判らんが……とにかく船室に運ぶから!!」


 迷わず横抱きをし、彼女を船室まで運んでゆくラインバルト。


「なぁエリス……」


 不意に語りかけるクロムに、


「どうしました? クロム?」


 エリスは頭を同じ高さまで下ろして尋ねる。


「この風景……良いと思わないか? まぁ話は後だ。エリス、見張りを頼む」


 そう言い残してクロムは追いかけてゆく。エリスは彼の願いを聞いて、見張りに着いたのだった。

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