第7話 幕間

「……で、あの神殿の手掛かり捕まえられずにここで伸びていたと。つまりお前達はそう言うのだな?」


 クロムにぼろぼろに破壊され海上を漂う船達の上で。悪魔のように暗く低い声が響く。


「も、申し訳ありません……『グールド』辺境伯爵様……」


 重傷を負った変装した騎士侯が目の前にいる悪魔の声に謝罪していた。


「私達本隊が追いつく前に弱っているゴースト一匹も捕まえられないとはな……。うちの騎士団も弱ったものだ」


 呆れ返るように息を吐く声の主。中天から夕方に差し掛かりつつある輝きに照らされて。声の姿が見えた。


 姿は男。くすんだ短い黒髪に顔の半分が火傷のような跡が残る鋼のような肉体の壮年だ。騎士侯爵が呼んだ名前が真実ならば、彼はグールドという名前なのだろう。


「グールド伯。この惨状はゴーストの仕業だけとは思えませんが……」


 不意にグールドの傍らから声がした。硝子の風鈴が鳴るような瑞々しい若い少女の声。多分……十四、五歳ぐらい。


「フム……それは私も思うな。お前も同意件か、アルタミア」


 声のした方を向くグールド。そこには薄い金髪に声の美しさに相応しい容姿の美少女が立っている。

 

 彼女の名前は『アルタミア』。この騎士団の副長で優秀な黒魔道士だ。


「……すみません。あのゴーストを助けた自由騎士のガキはアバスの使い手でして……」


 何とか自分達が負けた理由を説明する為に、必死に情報を絞り出す敗残兵達。


「それはまた。仕方ないな……だが追うぞ。どの道あのゴーストが向かう先は判っている

 ――アルタミア!」


 振り返り太い声で尋ねるグールドに、


「間違いありません。後もう少し、星辰の導きでは三日後に忘れ去られた伝説の神殿――『還流の神殿』が姿を現します」


 迷いなく空を眺めて返すアルタミア。


「だ、そうだ。貴様ら治療したらすぐに船を出せ! 還流の神殿にはあの『アブサラスト平原』に行ける道があるのだ!! 我らはそこの力を手に入れるぞ!!」


 船が震える程の大音声を上げるグールド。それに応え無事な戦士達は武器と共に声を上げ、無事でない者達は船医達の治療を受けながらも応える。


「……」


 唯一アルタミアだけが。応えつつもほくそ笑んでのだった。

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