仲介者:尾紫茂絵摸の場合

 自宅の一室の机で、絵摸えもはパソコンを見つめていた。


 画面には名簿の様に、横書きの名前が縦にずらっと並んでいる。その中には登米池とめいけ月子つきこ観革みがわ利乃香りのかの名前もある。整列した名前の隣には数字がある。利乃香の隣にある数字は5000と書かれている。それが何個も横に続いている。対して月子の方はずっと0が続いている。


 しばらく肘をついて、画面を見ながらマウスのホイールを回していた。唇を尖らせて、思案顔の絵摸だったが、不意に何かを思いついたように表情が明るんだ。スマフォを取り出し、アドレス帳を開く。

 登米池月子の電話番号をタップする。


「あ、もしもし? 月子ちゃん久しぶり。どう? 元気してた? うん。あー、それなら良かった。うん。うん。幸せなら良かったわ。私の言った通りでしょ? あなたならきっと上手くいくと思ったのよ。今は何をしているの? 仕事はやめて専業主婦? あー、子供がまだ小さいから目が離せないのねえ。それじゃあ時短バイトも難しいわね。でもお小遣い欲しくない? 良い副業があるんだけどやってみない? 家に居てできる仕事だから子供が小さい家庭の主婦には絶対に向いていると思うの。月3000円くらいから10000円くらいは簡単に稼げるわ。え、自信ないって? そんなの大丈夫。誰にでもできるし、というか、みんな常日頃からやってることを仕事にしただけの、そうねえ、呼吸してお金がもらえるようなものだから。絶対にできないなんてことないわ。それにそう……」


 絵摸は八重歯が覗く程口角を吊り上げ、笑って言った。


「あなたなら、きっと上手くいく」

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