第7話 属性の開花
俺がやりたかった事?
分からない。
俺、何がしたかったんだっけ......。
「今のコウには少し難しいかな。あ、会社生活に追われて、その余裕がないだけだと思うからあまり深刻そうな顔をしないで! じゃあ質問を変えるよ。この公園と博物館に来て何を感じた?」
「俺がここで感じた事? 公園で感じることなんて、何もないんじゃないか」
そう言いかけて、俺は待ち合わせしているときに考えたことを思い出す。
「芝生の香りと噴水の音が気持ちいい公園だな、と。あと日陰でじめっとした地面の香りが嫌いじゃないなと感じた。嫌いじゃないんだ、こういう空間」
自分で言ってて恥ずかしくなる。その程度の感想しか、その程度の観察眼しか持っていないのか。
俺の想いとは裏腹にサラフィナは明るい声で続ける。
「そっか、この公園って火をモチーフにした街灯とか、博物館の敷地になる前が個人宅だった名残りで灯籠とかがあるんだけど、気にならなかった?」
「なんだって? 周りに?」
サラフィナに言われて周りを見てみると、確かに特長的な螺旋状の柱の上に燃え上がる炎をモチーフにしたライトが付いた街灯がある。
博物館を囲む林の合間には風情のある灯籠が置かれているが、手入れされているのか苔は付いていないようだ。
俺は頷いてサラフィナに同意した。
「なんでこんな特長的なものに意識が向かなかったんだ、俺は。気付いてみると笑えるな」
サラフィナも一緒に周囲を見ていたが、自嘲気味の俺と目が合った途端、手をぶんぶんと振って視界を遮った。
「あ! ごめん、大事なのは気付かなかった事じゃなくて、気付いた事なんだ。コウは芝生や土の香りが好きとか落ち着くとか、そういう気持ちになったんだよね」
子どもを諭すような優しい口調で言われて尚更惨めな気持ちになりかけたが、はたと気付く。
サラフィナが伝えようとしている事の真意は? 属性の相性?
思考を巡らせる。この質問の意図は。芝生や土の持つイメージをもっと具体的に頭で考えろって事か?
芝生の香りはとても心地良いが、特にそれ以上のイメージは湧いて来ない。なにか掴めそうだが、ぼんやりしたままだ。
土はどうだ。そういえば小さい頃、親の庭いじりをよく手伝ったっけな。耕した土って暖かくて気持ちが良いんだ。
過去の土の感触を思い出していると、突然イメージが脳裏に浮かんでは流れ込んでくる。土の柔らかい肌触り。雨の日の葉っぱ混じりの土の香り。何処までも広がる地平線。地下むろや地下室に入った時の空気の異質感。今まで触れてきた土、その大地の風景。
イメージが消えた時、頭を身体の奥がぽうっと暖かくなったような気持ちになり、途端、足元に何かが繋がったような感触。
次いで、身体から茶色い粒子が溢れ出した。
懐かしいような、暖かいような。イメージはまさしく......。
「これが、土の適性? 大きな力に包み込まれるような感触だ。安心感だけじゃない。しかも全属性が見えてた時よりはっきり感じる」
「土の適性が出やすい人は、人を影から支えるのが得意な人に多いかなー。あとは頑固な人! コウは......ノーコメントで」
ノーコメントも何も知り合って大して経ってないだろうが。と、内心思いつつも、大して経ってないのに悪ノリして手を繋ぎ返した自分がいるので、何も言わずにサラフィナの言葉を待つ。
「木や水との相性がいいよ。コウは噴水の音についても言及してたよね。せせらぎを聞くのが好きじゃない? 水もそのうちいけるんじゃないかな。木は寡黙な人が多いからコウには無理かもねー」
サラフィナの言う通り寡黙な俺は寡黙ではないので反論せずに、また意識を集中する。
水、水、飛沫? 海? どうにもイメージが固まらない。水面の動き、プールの色、いやどうにも違う気がする。
イメージ、イメージ......。
うんうん唸る俺を5分くらい眺めてから、サラフィナが付け加える。
「あ、今は水属性も無理だと思うよー。土適性の感じをしっかり掴んで、自分と切り分けられるようにならないと。また後日一緒に頑張ろうね」
ウィンクをするサラフィナはやっぱり可愛かったが、それでも言いたい事はある。
「そういうことは先に言え!」
もちろんサラフィナはいつもの笑顔。
5分も黙ってたのは絶対ワザとだ......。
異世界転生は楽じゃない 湯桶酒呑 @yutosyuten
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