第6話 適性属性

「ええ......のパニック症状と......恐れがありますが現状は......引き続き......ええ......問題ありません......」



 ハッと目を開けると、目の前には心配そうな顔をしたサラフィナがいた。


「コウ! 気付いた!?」


俺が目を覚ました事に気付いたサラフィナは、心底安心したような表情をしている。


「眼鏡掛けたら急に貧血で倒れたからびっくりしたよ。魔力が表に出るはずもないから魔力酔いでもないし、どうしたの?」

 

慌てて俺は手の平を見つめる。

そこには先程の≪≪ナニカ≫≫はなく、七色の粒子がフワフワと漂っていりだけだった。

いや、よく見ると黒っぽい粒子もあるが、さっき見た嫌悪感の塊のような黒ではない。

あれにサラフィナは気付かなかったのだろうか。


「なあサラフィナ。粒子の色は赤、青、黄、茶、緑、白、黒、金の八色か? 血のような赤や黒というよりポッカリ闇の穴が空いたような粒子は?」


「あれ、属性の数って説明したかな。そう、火、水、風、土、木、闇、光、金の八属性が出やすいね。」


時とか無とかもたまーにあるけど。と続けたサラは例の悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「コウの言う粒子は聞いたことがないけど......そろそろお膝からどいてくれるかな?」


どうやらサラフィナは俺が気を失っている間、ベンチに座って膝枕をしていてくれたようだ。道理で木製ベンチにしては寝心地が良いわけだ。


「ずっと見ていてくれたのか? 悪いな......いや、ありがとう」


そう言って俺は身体を起こしながら、サラフィナに再度問いかける。


「八色全部見える場合は何が得意なんだ?」


サラフィナは少しこちらを憐みの目で見て、そして溜息をつき、今度はまた不機嫌そうな顔になった。


「八色全部見える? それは自分の事が分かっていない人に出る適性だね。全てに適性があるとも言えるけど」


「全てに適性がある方がいいんじゃないのか、全能じゃないか」


万能な方が便利な気がするが。

サラフィナは静かに首を横に振った。


「全属性適性は、まず精霊に愛されないんだ。反対属性の気配が気になるみたい。あとはそうだね......、例えばここに小さな火柱があったとして、コウならどうやって消す?」


「近くに消火器があれば使うだろうな。あとは消防に連絡する。いや、冗談じゃない」


「うんうん。じゃあ火属性だけ魔法が使えたとしたらどう消す?」


いきなり非現実的な質問になったが、サラフィナが不機嫌そうなのが何となく嫌で俺は考えを巡らせる。


「魔法を使ったことがないからな......、その火柱が自分に制御できるか試すか。あとは、その火柱の周りに更に炎の壁を作って、火柱周りの酸素を無くすとかはどうだ?」


サラフィナは楽しそうに手を合わせて何度も頷いた。


「よくそんな事思い付くねえ。コウは魔法士の才能があるかも。じゃあ水属性が使えたらどうやって消す?」


「そりゃ素直に火が消えるまで水を掛けるだろうな、単純だ。」


サラフィナは欲しい回答が得られたとばかりに手を打つ。


「そう! 全属性適性になると大抵の課題を安易に解決できる。課題と逆の事をすればいいんだから。それって本人の工夫や実力とは少し違うよね。でも全属性適性の人は慢心する。力技で解決して大成しない。経験上ね」


 それはどうだろうか。色々な属性の組み合わせを試行錯誤するのは面白そうだし、俺なら試したいが。

 口調から察するに、サラフィナ自身が全属性適性の人間が嫌いなのかもしれない。

 サラフィナはさらに続ける。


「何より、最初に言った通り、自分でやりたい事が決まっている人は全属性適性にならない。競うのが好きな人は火属性、正義感の強い人は光、みたいにね」


サラフィナは俺を見つめる。


「コウは何がしたい?」


「異世界でやりたい事なんて思い付かないけどな。のんびりしたいくらいか」


「そうじゃない、そうじゃなくて......」


悲しそうに目を伏せながら彼女は話す。


「この世界でやりたかった事はない?」

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