真実の災難

「アンタもホント、苦労するわね」


「…言うな、ヒミカ」


ソウマの店で、ヒミカ、セツカ、ルカ、シヅキ、そして私の五人がそろっていた。


ヒミカは専門学生で19歳の女性。


セツカは男子中学生で15歳。


ルカは女子大学生で20歳。


そしてシヅキは25歳の男性で、地下鉄の駅員だ。…普通の【地下鉄】ではないが…。


四人とも、私とは血縁関係がある。


「…もうカンベンしてくれってカンジだ」


四人は苦笑しながら、テーブルに置かれたケータイの男を見ていた。


私達が囲むテーブルの上には、携帯彼氏についての報告書が散らばっていた。


ソウマはすぐに調査をしてくれ、結果が出た。


それをわざわざ資料にして、今日呼び出したのだ。


この四人は私が呼び出した。


いろいろと…関係あるから。


「でもビックリだね。今のケータイって、ホントなんでも出来る。まあボクが言うのもなんだけどさ」


「セツカが言うと、説得力があるよなぁ」


シヅキが頬杖をつきながら、ニヤニヤした。


「でも…どうするの? ミナちゃんの方は」


ルカがたたまれたままのピンクのケータイに視線を落とす。


「それなんだがな、ルカ」


「うん」


「悪いが、赤外線でお前のケータイに移してくれ」


「…はい?」


ミナのケータイを、ルカに差し出す。


「しばらくの間だけで良いんだ。解決法を見出したらすぐに解除するから」


「って、しばらくケータイが彼氏なの!?」


「そう。ラブゲージにはくれぐれも気を付けろ」


ルカはブツブツ言いながらも、二台のケータイを操作した。


「…OK」


そしてミナのケータイを返してきた。


開けて確認すると、桜の写メの待ち受けに戻っていた。


「すまんな」


「でも何でわたしなの?」


「ヒミカには最近、婚約者が出来ただろ?」


「ああ…」


私とルカはそろってヒミカを見た。


すると複雑そうな顔をする。


「…好き好んで出来たワケじゃないわよ」


「でも嫉妬深いんだろ? ケータイを真っ二つにされるぞ?」


「うっ…」


思い当たるフシがあるのか、青い顔でヒミカは黙った。


「でもよぉ、どーすんだよ、マカ。いくらウチの血縁者とは言え、本当に無事で済むか分からないだろ?」


シヅキは資料に目を向けている。


そこには携帯彼氏が関連しただろう、事件の報告書が書かれてある。


「まっ、一種の地縛霊だからな。物に憑くならまた別なんだが、コレはまた別件だからな」


「ややこしいな」


「ああ、だから厄介なんだ」


「それで? ボク等がすることは?」


セツカは楽しそうに聞いてくる。


状況を面白がってやがる。


「シヅキとセツカは独自で調査してほしい。ヒミカは婚約者のキシと一緒に」


「キシと? いいの? 巻き込んでも」


「今回はウチの血縁者は関わり無いからな。調査する内容は、コイツ等の仕組み。それさえ分かれば、解放される」


「分かったよ」


「良いケドよ。大丈夫なのか?」


シヅキは私とルカのケータイを指でさす。


「心配せずとも私は平気だ」


「わたしだって大丈夫です! 地下鉄のバイトだってこなしたでしょ?」


「分かった分かった。んじゃ、分かったら呼ぶからな」


シヅキとセツカは立ち上がり、二人は店を出て行った。


「んじゃ、こっちも動くか」


ヒミカは早速ケータイを取り出し、キシと連絡を取った。


「―これから話しに行くから」


「ああ、頼むな」


ヒミカは手をヒラヒラ振りながら、店を出た。


「さて、わたしはしばらく彼氏持ちか」


ルカはケータイを開き、マミヤを見た。


「…アレ? 何となく、マカに似てない?」


「ミナがそう作ったんだ! …とは言え、資料を見ると、そういうふうになるよう先導されたのかもしれんが」


「なるほど。それじゃ、しばらくは恋人ゴッコを楽しみますか」


続いてルカも店を出て行った。


「しかし…」


四人がいなくなってから、ソウマが店の奥から顔を出した。


「彼等に頼むのは良いんですけど…。そう簡単には解決しないような気がしますね」


「解決しないなら、しないでいいさ。ただ解放されたいだけだからな」


「…ミナさんが絡んでいないと、冷酷ですね、マカ」


「同属が絡んでいないと、だ」


余計な事件を抱え込むつもりはない。


私はケータイを握り締め、立ち上がった。


「調査ご苦労。礼は後で支払う」


「終わり次第で構いませんよ。これからいろいろと忙しくなるでしょう?」


「スマンな」


私はソウマに軽く手を上げ、店を出た。


するとケータイが鳴った。


「はい?」


『あっあの、マカ』


ハズミだった。


「何だ?」


『オレのこと…消すつもり?』


ケータイは会議中、ずっと開きっぱなしだった。


つまり、ハズミには会話を聞かれていた…と言うか、聞かせていた。


…この手のものは、まず自分を自覚させることが大切だったから。


わざと話を聞かせていた。


「…いや、正確には成仏の仕方を探している。残念だが私は一緒には逝ってやれない」


『そっか…』


ラブゲージが100になれば、携帯彼氏と同じ死に方をする。


彼等はすでにこの世にいない存在。


しかし未練があり、この世に存在し続けた。


そのことをある意味利用され、こんな形で存在し続けている。


ラブゲージがゼロになれば、それも死に繋がる。


どちらにせよ、良いことは無い。


「安心しろ。お前が荒事を起こさない限り、私達も手荒なことはしない」


『うん…』


「お前だっていつまでもココにいてもしょうがないだろう? とっとと輪廻を巡るべきだ」


『うん、そうだね』


しかし返ってくる声は落ち込んでいる様子。


私は歩道橋の階段を上りながら、考えた。


人を慰める言葉なんて、ミナ以外に言ったことがないからな。


「それにな…」


なおも言おうとして、目の前の光景に言葉を失った。


歩道橋の下は交通量が多い道路。


そこへ落ちようとしている女子高校生がいる。

しかも彼女の姿にブレて、異形のものが見える。


ギリギリ人の形を留めた肉の塊が、彼女を落とそうとしているように見える。


その彼女の手には、ケータイが…。


「…おい、ハズミ。あの子はまさか」


そこまで言って、私は自分のケータイを彼女へ向けた。


『ヤバッ…! マカ、あの子ラブゲージ100の状態になってる!』


「くっ!」


咄嗟にカバンを放り出し、ケータイを握り締めたまま走り出した。


しかし彼女に近付くにつれ、霧のようなものが見えてきた。


しかも…体が重くなっていく。


「おい…。コレは…」


何かの力が動いている。


ついに私の体は止まってしまった。


彼女との距離は2メートルぐらいなのに!


『マカ!』


しかしハズミの声で、冷静になった。


「こんなのに…負けるかぁ!」


集中して、体の中心に気を溜めた。


そして気は体のすみずみにまで広がっていく。


わずかに体が動き出す。


彼女はすでに、手すりから体を乗り出している。


「うぐぐぐっ…!」


思った以上に、力が強い。


『マカ! 頑張って!』


「分かって…る!」

一度目を閉じた。


体から熱が湧き上がる!


気を体内で爆発させた。


目を開ければ、体は自由に動く。


私は一気に駆け出し、彼女の肩を掴み、そのまま倒れ込んだ。


ぎっギリギリだった…。


すでに彼女の上半身は手すりの向こうにあったから…。


「うっ…」


彼女は苦しそうに顔を歪め、しかし意識は戻らない。


私は彼女の手から、ケータイを奪った。


眼鏡をかけた真面目そうな男が、待ち受けに写っていた。


『邪魔するなよ…!』

忌々しそうに私を睨んでくる。


「黙れ」


だが私も負けない。


彼女を抱き締めたまま、男を睨み返した。


「私の眼の届くところで、余計な事件を起こすな。己が死を受け入れられぬ半端者がっ!」


ぐっ、とケータイに気を入れる。


バチバチッ!


握っているケータイから電気が放たれる。


『うあっ!』


「道連れがいなければ成仏も出来ないか? そういう存在こそ、私を一番苛立たせる! とっとと消えろ!」


バチンッ!


最後に強烈な電気を放ち、ケータイの画面は黒く染まった。


黒い画面に映るのは、私の赤い両目。


「ふぅ…」


…いささか気を使い過ぎた。


まさかこの子から、気を奪うワケにもいかないしな。


『マカ! 大丈夫?』


ハズミが声をかけてきたので、私は自分のケータイを見た。


「…何とかな」


『アレ? キミの両目…赤い?』


「ああ、ウチの血族は力を使うとこうなる…。私は万物の気を使うからな」


一時、私のことが都市伝説になったこともあったっけ。


そんなことを思いながら、ハズミの心配そうな顔を見る。


「ハズミ、悪いがカエデに電話を通してくれ」


『うっうん、分かった』


するとハズミの姿が消え、カエデの電話番号が画面に映った。


私はケータイを耳に当てた。


「マカ様? どうされました?」


「ああ、カエデ。悪いんだがな…」





2時間後。


私は自宅のマンションのリビングのソファーで、のびていた。


「とりあえずあの少女は記憶を操作して、家に帰らせましたわ。よろしかったですか?」


「…ああ、手間をかけさせたな」


「マーちゃん、大丈夫ぅ?」


「はい、お水」


レイラがストローを差し出してきたので、私は寝そべったまま啜った。


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