イエスマン

「偉いわね、きちんと使ったおもちゃは元の場所に戻すのよ?」

「うん、わかった」

僕は昔からいい子だった。

言われたことは1度で覚えたし、それを完璧にやってのけた。


「宿題はお家でやってきて、明日までに出しましょうね」

「はーい」

僕は昔から勤勉だった。

見直しも怠らなかったし、常にいい順位をキープし続けた。


「このえんぴつかっこいい!これちょーだい!」

「いいよ、あげるよ」

僕は昔から殊勝だった。

友人が喜ぶことなら自ら進んで行った。


「ごめん、用事出来ちゃってさ〜。今日だけでいいから当番変わってくれない?」

「うん、大丈夫だよ」

僕は昔から寛容だった。

友人のピンチには柔軟に対応した。


「なぁ、来週はもっと持ってこいよ。じゃなきゃわかってんだろうな」

「ごめん。もっと頑張るね」

僕は昔から真面目だった。

彼らが望むことを成る可く叶えようとした。


「貴方、志望校は決めたの?しっかり勉強しなきゃマトモな人間になれないわよ」

「ああ、分かってるよ」

僕は昔から従順だった。

両親の期待には全身全霊を持って応えた。


「君にしかお願いできないんだよ。ね、明日までに宜しく頼むよ」

「はい、お任せ下さい」

僕は昔から優等だった。

振り当てられた仕事以外も期日までに全てこなした。


「この取引先、君の担当だったよね?」

「はい、申し訳ありません」

僕は昔から受動的だった。

言われたことは全て僕のすべきことで、全て僕の責任だった。


「ごめんねぇ、俺としては良くやってくれてると思うんだけど上からの命令でね。今日限りで…」

「はい、畏まりました」

僕は。

僕は今も昔も、イエスマンだった。

そこに僕の意思など存在しない、ただのマネキンだった。


僕は皆が僕を頼ってくれる、それだけで嬉しかった。それだけで良かった。


僕は。

僕はただ、誰かに認めて欲しかったのだ。


.


.


.


「今この瞬間を持ちまして貴殿の人生は終了致しました。速やかに輪廻の輪へお戻り下さい」

「_____」

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