何処噺(いずくばなし)

水鳴咳 辟(みなせ へき)

紅い微睡み

君に初めて触れた日。

柔らかい頬に手を添えて、そろそろと手を滑らせた。その熱に私の手は情けなく震えた。


こぽこぽ、こぽぽ。


手から君とのお揃いが溢れる。私には似つかわしくない、燃えたぎるような情熱の色。色のない世界で唯一私と君を染め上げる色。


どろろ、ぺちゃん。


端からどんどん君と同化していく。そして私は君に溺れていくのだ。悦びの悲鳴が喉から漏れる。そうして私は一緒に溶けてゆくのだろうか。深淵へと堕ちていく頃には、この悦びを表現する術も消え失せているだろう。


ごぽ、ぶくぶく。


少しの間だけこうして君と微睡みたいのだ。何もかもを無くしてしまう私へのせめてもの手向けに。今に君が私を連れ去っていく。深く深く沈んでいくその時まで。


…。


私が君に初めて触れた日。それは私と君の紅が交わった日。


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