外伝の登場人物と、おまけの後日談

折賀おりが美仁よしひと

 外伝の主人公。

「なんかこいつ難しいこと考えてそう」という理由で折賀一人称は今まで避けていたが、いざ三人称で書いてみると折賀の心情ダダ洩れになった。一人称でもよかったっぽい。

 寿司と納豆が好き。外伝で「納豆巻き」のコードネームが追加された。


甲斐かい健亮けんすけ

 外伝ではサブキャラ。「眠たがりで手のかかる弟」ポジ。

 本編での甲斐の「ハーツホーン・ミッション」は一エピソードの中でまるっと収まる程度の文量。

 転移先とミッション現場が近かったこと・甲斐の捜索能力・折賀の事前根回し・ハーツホーン自身が地位のある大人に成長していた、等が主な理由。


■ロディアス・ハーツホーン

 外伝では愛らしい少年キャラ。

 特殊能力でイルハムの言葉を受信。

 父を助けてもらうために折賀を自分の世界へ呼び寄せた。


■グレンバーグ

 CIA工作本部長。アティースの祖父にあたる。

 話のわかる人物で助かった。


■ウォーレン・マックレー

 ソ連専門の分析官だが、人手不足ゆえに工作担当官として現場によく駆り出される。

 おかげでいきなり東ドイツへ突っ込まれても臆さず任務を遂行してくれた。

 折賀にとっては頼れる先輩となった。

 特技は変態交じりの冗談で相手を脱力させること。制服女子高生愛好家。


■ウィンダム・ハーツホーン

 ロディの父。卓越した聴覚の持ち主。

 バルテンを国外脱出させようとしてシュタージに捕らえられた。


■アディソン

 西ベルリン支局のメンバー。ウィンダムの仲間。

 ウィンダムのために壁に資料を貼りまくり、折賀とマックレーに多くの情報を提供してくれた。


■ライムント・バルテン

 ウィンダムが脱出させようとした東ドイツの政治家。

 党のあやつり人形として、ウィンダムを売り、自由なき人生を送っている。


■イルハム

 愛すべきちっさいおっさん。折賀が決して勝てない相手。

 彼の「時空能力」が、折賀と甲斐を並行世界へと送り込み、ハーツホーンの救済へと繋がった。



  ◇ ◇ ◇



 予測はできていたが。


 話の後半、亀の形のクッション(美弥みやの手作り)を枕にして気持ちよさそうにごろ寝していた甲斐は、目を閉じてムニャムニャ言いながらすっかり本寝に入ろうとしていた。

 これだけ長い話を人にさせといて、これだ。


「寝るんなら帰るぞ」


「うーん、お腹いっぱい……洗い物、よろ……」


 確かに、持ち帰る前に鍋を洗わなくてはならない。ついでにおたまや食器類も。


 折賀は立ち上がると押し入れから掛け布団を出し、甲斐の上にどさっと放り投げた。

 布団と一緒に、今まで押し入れで寝ていたらしいケンタとガゼルも落っこちてきたが、甲斐と一緒に布団の中で丸まって二度寝に突入したようだ。


 すやーと気持ちよさそうに寝る相棒プラス二体を眺めて、改めて思う。


 帰ってこれてよかった。

 こんな風に、他愛もないわがままを言いあえる日常に。


 相棒の寝息に、洗い物の水音が重なる。

 どこから見てもいたって平和な、穏やかな家族の夜だった。



  ◇ ◇ ◇



 結局、帰るのが面倒になった折賀はそのまま一泊した。

 朝食は鍋に残り物をつっこんで雑炊にした。

 昨夜のカレー鍋は完食したので、朝は美弥出汁みやだしベースの優しい味にしておいた。


「あのさ」


 寝ぐせ頭をぽりぽりかきながら、湯気の立つ鍋の前で甲斐が言う。


「調べたの? マックレーさんのこと」


「ああ、アティースにいた」


 ぐつぐつといい音を立てる鍋の火を止めて、お椀に雑炊をすくって渡す。甲斐は素直に「いただきまーす」と受け取った。


 折賀は自分の雑炊に納豆をトッピングして、軽くかき回しながら話を続ける。


「こっちでの彼は、十年以上前に退職していた。今は、執筆業などをしながら家族と静かに暮らしているそうだ」


「へえ」


「ソ連専門の諜報官として、冷戦時代にモスクワへ飛んで、KGBや東欧諸国相手に駆け回っていたらしい。二十代のうちにモスクワ支局長に抜擢ばってきされて、東欧本部長に昇進したのち現地モスクワでソ連の崩壊を経験した。普通、本部長ともなれば現地へは飛ばずにラングレーに落ち着くらしいが、彼は頻繁ひんぱんに米ソを往復してKGBとの間にネットワークを作り上げた。功績が認められて、最終的には工作担当副長官になったそうだ」


「副長官! へぇー! 偉い人じゃん!」


「四十代後半に結婚」


「結婚! へぇー」


 雑炊をふうふうしたりかき込んだりしながら、甲斐の口からへぇーへぇーと驚きの声が漏れる。

 一杯を完食すると、ことんと箸を置き、姿勢を正して折賀を見た。


「会いたい?」


「……いや」


 既に、何度も考えたことだ。


「彼は俺のことなど何も知らないし、会う理由がない。五十近く歳上だしな。『星』にはならず、幸せに生きてくれているならそれでいい。の彼も、きっとそうなんだろうと思えるから」


「そっか」


 少し神妙な面持ちになる甲斐。

「幸せに生きている」と一言でまとめても、そこへ至るまでにどれほどの苦難を経験してきたのだろう。

 他国で諜報官・工作員として生きる道は、決して平坦なものではないはずだ。


「お前の話を聞いてて思ったけど。やっぱり、お前はすげえな。お前だったら、きっと目指す国際情報官になれると思う」


 折賀は無言で納豆雑炊を口に運ぶ。


「アディライン――コーディの母さんは、ハーツホーンが家族を情報組織の闇に奪われたと言ってた。でも、俺たちはその闇からハーツホーンを救い出した。俺たちだけじゃなく、情報組織の力があったからこそできたことだ。

 日本の情報組織は弱い。日本には、お前みたいなやつが絶対必要なんだと思う」


 折賀も雑炊を食べ終えて、お椀を置いた。


「お前の能力も、スパイ向きだけどな」


「俺には無理だよー。グレンバーグさんみたいに重い責任抱えられないし、マックレーさんみたいに何か国語も覚えられないし、お前みたいに速く走れないし、ハーツホーンの親父さんみたいに他人のために捕まって拷問に耐えるとか、まず無理」


「確かに、お前に拷問は無理だな。腋毛わきげ一本抜かれただけで、あることないことベラベラ喋るんじゃないか?」


「そりゃ痛いのやだし……って、腋毛かよっ! 俺弱ぇー!」


 本当は、「お前は優しすぎるからな」と言おうとした。

 甲斐には甲斐を必要としているフィールドがちゃんとあるはずだ。


 自分にも、自分にできることがある。


 甲斐によると、かつて「アルサシオン」のメンバー、フォルカーが折賀の「能力の使い過ぎ」を懸念する発言をしたという。


(お前らも気をつけろよ。まだはっきり解明されてねえけど、力の使い過ぎは明らかに体に過大な負担をかける。特にあの黒コート少年、今までそうとう無茶な使い方してきてるだろ)


 いつか、能力が使えなくなるときが来るかもしれない。

 あるいは、使い過ぎで体がむしばまれるときが。


 それでも、この力が必要ならきっと、ギリギリまで使い続けることになるだろう。

 誰かに危険が迫っているときに、力を使わないという選択が自分にできるとは思えない。


 力を使わなくても済むような、平和な日々が続くならそれに越したことはない。


 まだこれから現れるかもしれない、後発の能力者ホルダーたちのためにも。

 何かあれば、同じように人のために力を使おうとするはずの家族のためにも。


 今ここにある平和を、守り続けていける男になりたいと思う。


 そのためなら、


 また、どんなに高い壁でも越えてみせる。







『コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!』

外伝

『もうひとつの最終決戦〜四十年前のスパイ』




 < 完 >

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コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活! 黒須友香 @kurosutomoka

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