「俺の素人作家としてのファイナルブレーキが!」――ある素人作家の恐怖体験――

烏川 ハル

現実に起こりうる恐怖譚

   

 その日。

 PCを立ち上げた俺は、いつものように、WEB小説投稿サイト『オリジナル・ノベラーズ』にログインした。

 昔は漫画やアニメの二次創作小説を書いていた俺も、すっかり今では、この『オリジナル・ノベラーズ』――オリジナル小説専用の投稿サイト――にハマっている。


 オリジナル小説には、二次創作とは違う魅力がある。何より、いちいち原作設定とか確認する必要もないのがいい。自分の作品の設定は、自分で自由に考えることが可能なのだ。

 だから「この魔法の呪文なんだっけ?」とか「この世界にマッチ箱ってあったっけ?」とか、気にする必要もない。呪文詠唱も文明レベルも、困ったら、その都度設定してしまえばいいのだ!

 ……いや、俺は一応、設定メモは作ってから書き始めているが。

 それでも。

 とにかく自由に書き進められる。こんなに嬉しいことはない!

 俺は二次創作作家だった時代も、ヲチスレで「筆だけは速い空気作家」とか「駄作量産しすぎ」とか言われていたが、オリジナルを書き始めたら、さらにスピードアップ!

 登録して三ヶ月で、もう10万文字を超える作品をいくつか完成させている。さらに、並行して現在連載中の長編が三つ。どれも数十万文字を超えており、一番長いやつは、そろそろ百万文字だ。


「さあ、今日も書き進めるぞ! アンコちゃんと、パインちゃんと、チェリーちゃんの、今日の活躍は……」

 それぞれの作品のヒロインの名前を口にしながら、今から書く内容を想像して、ワクワクする俺。

 どれも、俺の好きな漫画やアニメの要素をドンドンぶち込んだ『大好物の宝石箱』のような作品だ。昨晩も、眠る時間のギリギリまで、深夜のテンションで書き続けて、即アップしていた。

 深夜のテンションだからこそ盛り上がる、凄いクライマックス。自分でも「続きはどうなる?」と気になるところまで投稿したから、きっと、読者の――数少ない読者の――方々も、一緒にドキドキしてくれているに違いない。

 そう思って、作品の感想欄をチェックしようとして……。


「あれ?」

 見当たらない。

 現代ファンタジー長編『転生したらアンパンの中身にTSしてた件』も。

 異能力バトル長編『サラダだけは勘弁な! アタシをサラダにするのは不吉だぜ!』も。

 異世界ファンタジー大長編『召喚された世界では、逆にチェリーは明るい隠語』も。

 どれも、きれいさっぱり消えている!


「……なんで?」

 唖然とする俺は、メッセージランプが赤く点滅していることに気づいた。

「誰か、メッセージをくれたのか?」

 個人的に親しくしている人はいないはずだが……。作品を読みに来て、消えているから連絡をくれた? 俺が削除したと思って?

 あるいは、作品と一緒に感想欄が消えたことで、そこにコメントできなくなったから、わざわざメッセージ機能で感想をくれた?

 そんな想像をしてしまったのだが。

 メッセージを開いてみると。

 運営からの通達だった。


『あなたの作品は、二次創作小説です。ガイドラインに抵触するので、削除します。本来ならば警告で済ませるところですが、複数の作品で同じ問題が通報されたため、このような措置に踏み切りました。なお、今後も同様の作品を投稿するのであれば、アカウントも……』


 ……え?

 俺は目の前が真っ白になり、その文面も、途中までしか読めなかった。


 オリジナル小説は、二次創作ではない。だから、いくら好きなものをテンコ盛りにしても、あくまでもパロディ・オマージュの範囲にとどまるように、他作品の用語や固有名詞は使わないように気をつけてきたはずだが……。

「昨日のテンションは、一段アップしてたからなあ。もしかしたら、深夜のテンションに流されて……」

 どこまでならば書いても許されるのか。それを自分で定めた、ファイナルブレーキ。今までは、きちんと機能していたのに……。

「俺の素人作家としてのファイナルブレーキが! ついに壊れてしまったのか!」

 誰もいない部屋で、PCを前にして。

 俺は、涙を流しながら叫ぶのだった。




(『「俺の素人作家としてのファイナルブレーキが!」――ある素人作家の恐怖体験――』完)

   

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