第2話 俺はいきなり――

 放課後――中居先生は飛鳥の座る席の場所だけを言ってからそそくさと出て行ってしまった。

 今日はこの後に職員会議があるため、遅れるわけにはいかないそうだ。


 飛鳥の席は一番後ろの廊下側だ。”あの席ならすぐに体育のときにすぐに廊下に出られるな”と俺は考えただけで後はそこまで気にしなかった。


 俺は後ろで女子たちに囲まれている飛鳥を少しだけ見ながら、バッグに教科書やノートを詰めていく。


 俺はこれから部活なので、あんまり気にしている暇が無いのだ。


 ちらりちらりと飛鳥を見ている同級生たちを無視しながら、俺は教室を出る。すると後ろからポンポンと肩を叩かれる。


 ”何だろう”と思い、振り向いてみるとそこにはバッグを肩に掛けた涙が俺の肩に手を掛けながら立っている。


「これから部活か?」


 そう聞かれるいるので、俺は、

 「ああ、部活だ」

 と答える。


 「そうか」と涙はそれだけを言って、右手にいつも付けている黒い腕時計で時間を確認する。


 時刻は四時三十七分で、七時間目の授業が終わってからまだ二分しか経っていない。


「涙も部活に行くのか?」


 俺がそうたずねると、涙は「あぁ、休むわけないはいかないからな」とさわやかな笑みを俺に向ける。


                *


  涙と別れた後、俺が部室への道を歩いていると、「あの」と後ろから声をかけられる。


 振り返るとそこには、転校生の柊飛鳥ひいらぎあすかがいた。


 「な、何ですか?」


 なぜか敬語になってしまったが、どうにか言葉が出せた。


 俺はコミュニケーションが苦手なので、涙以外と話すときは、自然に話せない。


 「何というほどのことでは、ないのですが…」


 そう言いながら、飛鳥の視線はちらちらと後ろを見ている。


 他の誰かに聞かれてはいけない話なのだろうか。


 幸いなのかどうかは分からないが、ここには俺と飛鳥の二人しかいない。


 飛鳥はふぅと息を吐くと、俺に向けて一言。


 「大事な話があるんです」


 「大事な話があるんです」と言われれば、普通は告白か何かだと思うだろう。


 だが、俺には告白される部分は一つもない。


 それに俺は女子には興味がない。


 それは俺がショタコンだからだ。




 そんなことを考えていると「あの、どうかしましたか?」と飛鳥に心配される。


 俺は首を振って、「なんでもない」と言う。


 飛鳥は少しだけホッとしてから、俺に向けて話し始める。


 「すぐに終わりますから」


 そういうと、飛鳥は地面に向けてコンコンと、かかとを三回鳴らした。




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る