第3話 『草の庭』

(ここはどこだ?)


 さっきまでは飛鳥と一緒に学校内にいたはずだ。だが、そこはさっきまでいた場所とは別の森の中だった。


(何でこんな所に?)


 どこかはよく分からないが、飛鳥がかかとを三回鳴らしたことで、別の場所へ転移したみたいだ。


 周辺を探してみるが、さっきまで一緒にいた飛鳥はどこにもいない。


(はぐれちゃったのか)


 少し気落ちしてしまうが、ここで立ち止まっても何も変わらない。俺は始めの一歩を踏み出した。


                    *


 森を歩くこと数分。人どころか動物にすら会えない。腕時計もスマホも(元々)持っていないから正確な時間は分かるはずがない。


 たとえ誰かに会えたとしても、話せられるかどうかすら分からないが…


(まぁ、ここが異世界なら電波なんてないだろうけどな…)


 ”異世界なら”の話である。


(とりあえず歩くしかない)


 俺はそう考えながら、ひたすら歩く。


 途中で石にけつまづいたり、川があったので、水を飲んだりしながらも歩いた。

 

(結構歩いた気がするな)


 どれだけ歩いたかはよく分からないが、そう感じるのだ。 


(後少しかな)


そう思いながら歩いていると、やっと森を抜ける。


「やっと抜けた!!」


 そう大声で叫びながら前を見ると、そこには広大こうだいな大地が広がっていた。


 ところどころに草が生えていて、草の庭グラスガーデンと言えそうな場所だ。


(すごいな)


 そんな風に感じてしまう――それほどの絶景だ。


 その絶景を眺ながめていると、「やっと来ましたか、遅いですよ」と一人の少女が腰に一本の剣をぶら下げながら前から歩いてくる。


「少し遠くに飛ばしすぎましたかね」


 その少女は、学生服を着ている飛鳥だった。


「けれど、無事に辿たどり着けたようで良かったです」


 飛ばした本人が言うのは、どうかと思う。


 そんなことには気付かず、飛鳥は、

「まぁ、気を取り直して、まずはギルドに行きましょう」


「ギルドか。名前とかあるのか?」


 俺はフ○アリーテイルのことを思い出していた。


 「はい。トライアングルって名前があります。

 ですが、元々は私が付けたんじゃなくて、悠さんとボスさんがつけた名前なんですけどね」


 今、飛鳥は俺の名前以外に「ボスさん」と言ったような気がする。


「ボスさんってのは?」


 そう聞くと、飛鳥は寂しそうに少しだけ目を細めてから、「それはギルドに来れば分かりますよ」と言って、草地を歩き出す。


「ギルドへは私が案内するので、悠さんは着いてきてください」


 そう言う飛鳥の後ろを俺は追いかけた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「体力ないですね、悠さん」


 飛鳥は少しだけあきれながらも、息を切らしている俺の背中をさすってくれる。


(まさか女子よりも体力がないなんてな)


 少しは高校の体育でしているアップで体力がついていると思っていた。


(アップをあんなに頑張っているのに、基礎体力が全く上がらないのは何故なぜなんだ?)


 俺が通っている高校――聖天高校は体育の授業の最初にやるアップで、女子は二周、男子は三周を走っている。


 アップだけでもつらいのに、その後に授業の本番があるので、俺は体育の授業が大嫌いだ。


「大丈夫ですか?少し休みます?」


 俺は息を切らしながら、男としては屈辱的くつじょくてきなことを目の前で言われている気がする。こんなプライドがあるのが、そもそもおかしいのだが。


「もう少しで着きますから頑張ってください」


 飛鳥にそう励まされながら、俺はまた一歩、歩き出す。


(早く着いてくれ)


 心の中ではそんな情けないことを思いながら、目の前に見えるギルド――「トライアングル」の立て札が見える、その場所へと歩き出す。








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