第6話 俺の過去

「では、悠さん――いえ、村木悠の状況報告をおこないます」


「よろしく」


(俺のことは無視かよ…)


 そんなことを思う俺のことなど気にせず、飛鳥は俺の状況報告を始める。


「まず記憶ですが、マザーとの最後の戦い、及びこの世界のことをすべて忘れています」


「それは見れば分かるよ。僕のことも一切記憶にないみたいだしね」


「次に力や魔力のほうですが――」


 そこで飛鳥は一旦間を置き、


「力は普通以下ですかね♪体力もありませんし」


 と言い切った。


「おぉい!」


 さすがにこれには、俺も怒らずにはいられない。


「どうかしましたか、悠さん?」


 怒っている理由を分かっているくせに、飛鳥は首をかしげる。その姿がさらに俺を苛立いらだたせる。


「何だよ。さっきから俺が聞いているのを分かって、言いたい放題言いやがって。俺のことバカにしてんのか!」


「バカにしてます」


「同じく」


「んだとゴラァ!!」


 俺が怒り声をあげるが、飛鳥は気にする様子もない。


「だって事実ですもん。それとも今の貴方あなたが私に勝てるとでも?」


「うっ!」


 それを言われると何も言い返せない。昔の自分がどんな自分だったのかは分からないが、飛鳥がこう言うからには今よりも強かったのだろう。


 何も言えなくなった俺に、飛鳥はたたみかける。


「それに今の貴方あなたは、体力もなければ、握力あくりょく跳躍力ちょうやくりょくもない。どんな山もどんな谷も越えることはできません」


(今の言葉のなかに、俺が好きなアニメの曲の歌詞があったような?)


「それでもやりますか?」


 飛鳥の言葉には、有無うむを言わせぬ迫力はくりょくがあった。


(何も言い返せないな……)


 俺は深く深く嘆息たんそくする。


 そんな俺を見て、ボスは一つの提案をしてくれる。


「なら、戦ってみればいいんじゃない?」


 俺と飛鳥は同時にボスを見る。


「ちょうど闘技場も隣にあるし、それに――」


 ボスは少年の顔で、ニヤリと笑う。


 「――面白そうだしね」


 (俺はボスの遊びの道具か!)


 俺は心の中でツッコむ。

















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