第5話 ボス

「ボスさんを悠さんは本当は知ってるはずなんですけど、記憶が消えているので、忘れているのかもしれませんね」


 飛鳥はそう言って、大広間までの道を歩き出す。


「俺はそろそろ帰りたいんだけど…」


「ダメです。それはボスさんに会ってからにしてください」


 あまり動きたくない俺に向かって、飛鳥は俺を扉の前まで押していく。


(はぁ…。強気な少女じゃなくて、俺は少年が好きなんだけどなぁ…)


 そんなどうしようもないことを考えながら、扉の前まで押されてきたので、俺が扉を開ける。


 扉を開けると、そこには白銀はくぎんの髪をもつ男の子がいた。


「やぁ、待っていたよ。悠くん」


 その男の子は俺を見ると、気軽に声をかけてくる。


(子ども…?)


 俺はいぶかしむが、その男の子は俺にいぶかしげられていることなど気にせず、俺のひとみを見てくる。


(少年に間近で見られるとか、現実リアルでも緊張するな……)


 男の子は二秒ほど俺を見たが、興味がなくなったのか、トテトテと後ろにしつらえてある椅子いすまで歩いていく。重厚じゅうこう椅子いすに座る男の子もとい少年は考えるそぶりをして、


「よし確認終了♪」


 そんな間延びした声をあげるので、俺は盛大にズッこけた。


「なんでやねん!」


 さらにツッコミも入れる。


 そんな芸人のツッコミ役みたいなことをしている俺を、少年はヤハハと笑う。その笑い方は十六夜いざよいくんみたいで少し可愛かわいい。


「ゴメンゴメン。ただ確認したかっただけだよ。君が僕のことを覚えているのかどうか」


 それにしては、ツッコミがいのあるボケをかましてくれたが。


 そんな俺の心中しんちゅうさっしてか、「だって君がからかいがいのある顔をしていたから」と少年はぼやく。


 ”はぁ、なんなんだよ”と俺は思うが、そんな空気も少年が表情を変えることで、一瞬でこおりつく。


「さて、紹介して、飛鳥くん」


「はい」


(まさか)


 一瞬だけ、帰りたくなったが、時すでに遅し。 


「この人が、ボスさんです」


 その飛鳥の声は、俺の耳に強くひびいたのだった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る