第7話 闘技場に入る前に――

(でかいな)


 俺の闘技場を見た感想は、単純にそれである。というか、高校一年生としては割と普通の感想である。


「っていうか、これって誰のお金で建ってるんだ?」


 気になったので、隣の飛鳥に聞いてみる。


「率直ですね。まぁいいですけど」


 一瞬だけ苦笑いした飛鳥だったが、素直に話し始める。


「大方のお金は、ボスさんと中学生の時の悠さんがかせいだものらしいです」


 飛鳥のその発言に、俺は隣の飛鳥の顔を見てしまう。


「中学生の俺?けどあの時期は学校に行って、部活に行く。それだけだったと思うけど…」


 その言葉に飛鳥は悲しそうな顔をする。


「その時のことを覚えていないのは、仕方がありません。あなたはマザーとの戦いで記憶を失ったんですから」


 ふと、俺は疑問に思う。さっきの話にもあったが、マザーとは誰だろうか?


「マザー?」


 その反応に飛鳥は驚く。


「もしかしてマザー――マザー・イントワネイトのことが分からないとか?」


「だから誰なんだよ、それは!」


 俺はそう言わずにはいられない。マザーは「母親」の意味なのだろうが、それ以外には分からない。そもそも勝手に連れてきといて、そんな話をされても困る。


 飛鳥は少しだけ悩んで、こう言ってくる。


 「まず一つ質問ですが、マザーのスペルは分かりますか?」


 飛鳥の質問に俺はムッとする。


「それぐらい分かるよ。エム、オー、ティー、エイチ、イー、アールだろ」


「はい、正解です」


「さっきも言ったけど、俺のことバカにしてんの?」


「はい、バカにしてます。知力は普通以下だと」


「ひいらぎを答えたのは、俺だろうが!」


「はい、そうですね」


 飛鳥は投げやりな口調で返してくる。


 敬語だが、どこか飛鳥は俺のことをバカにしてる気がする。




「そんなとこでボッーとしてないで、早く入りましょう」




 飛鳥はそんな俺の考えなど関係なしに中へ入っていく。


 俺はそれを追いかけるしかない。 

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