『孤独の破壊者』

@murata2

第1話 飛鳥との出会い

 俺は高校一年生の村木悠むらきゆう。どこにでもいる普通の男子高校生だ。

 特別勉強が出来るわけでもなければ、スポーツが得意なわけでもない。入っているのは文化部であるワープロ部だ。高校の最初に受けた中間テストも全部が中の下だった。基本的には勉強や他のことにおいてもやる気が無く、いつも通り過ごすそんなある日のことだった。


                  *


 とある月曜日のLHR。担任であり、国語の教師である女性――中居先生がチャイムと同時に入ってきた。俺はあわてて、読んでいたラノベをカバンの中にしまう。日直による起立・礼・着席を終えた俺たちに向けて、中居先生は開口一番こんなことを言った。


「皆さん、今日は転校生が来ていますよ」


 中居先生がそう言うと、クラスのやつらは口々に騒ぎ出す。


「カワイイ子かな」「私はイケメンがいいな」「俺は転校生と付き合えたらいいな」


 最後のは無理だろうし、転校生からしたら勝手にハードルを上げられていい迷惑めいわくだろう。

 俺はそんなことを思いながら、話半分で聞いていた。 


 ちなみに俺に話しかける奴はいない。ただ一人、俺の席の後ろにいる


「なぁ、悠。転校生ってどんな子だろうな」


 そうやって気さくに話しかけてくるのは俺の親友の滝沢涙たきざわるい

 俺の唯一ゆいいつの友にして、親友だ。

 俺はその親友に「別に興味ない」といつも通り素っ気なく返す。


 涙は「相変あいかわらず三次元には興味なしか」と笑って返してくれる。俺はその親友の優しさを少しだけありがたく思う。


 そんなこんなで脱線していると、転校生の子は既に教室に入っていた。

 その子は黒髪の可愛かわいい女の子だった。百人いれば、百人中百人が美少女だと思うような子である。


「うわぁ」「カワイイ」「お人形さんみたい」


 教室からは声があがる。


 俺の席の後ろでは、涙が「もう来たのか」と意味の分からないことを言っている。


 その転校生は一瞬だけ涙を見たが、その時間は本当に一瞬で、すぐに背中を向け、黒板に名前を書き始める。

 その書き筋は達筆で、”チョークでこんな綺麗きれいな字が書けるのか”と俺が思ったくらいだ。


 そんなことを考えていると、転校生の手が徐々じょじょに止まってきた。書き終わったのだろう。


 そこには大きく綺麗な字で「柊飛鳥」と書かれていた。その字を見て、俺と涙、そしてクラスの賢いやつら以外から、ハテナマークが出る。


 そう。名前は分かっても、名字のほうが分からないのだ。


 そこで見かねたクラスの女子が手を挙げる。


 「あの先生、名前のほうはあすかと読めるのですが、名字のほうが分からないのですが」


キラーン


 するとどこからかそんな音が鳴る。


 その音は中居先生が眼鏡を掛けた音だ。その姿に数人の生徒たちがびびる。


 それは中居先生の本気モードだからだ。


 普段、中居先生は眼鏡を掛けない。それは中居先生が授業のときだけに眼鏡を使用するからだ。その時の中居先生は常に全力である。眠っているものがいれば出席簿で叩き、あくびをしているものがいれば、「背筋を伸ばしなさぁ~い」と満面の笑みで後ろに立つので、三ヶ月しか経っていないのに既すでに「鬼の国語教師」と、教室では呼ばれている。 


 うわさでは(一部のドMにより)ファンクラブが作られているらしい。あくまで噂だが。


「ねぇ、この漢字なんて読むか分からないの?」


 その圧倒的あっとうてきな中居先生の迫力はくりょくに、手を挙げた女子はすぐに着席した。


 その迫力に転校生である飛鳥も何も言えない。


「分からないなんて嘘だよね、私の空耳だよね」


 教室中でゴクンと、つばを飲む音がする。すでにお怒りモードのようだ。誰かが答えないと確実に中居先生が切れる。


 俺は覚悟を決めて、手を挙げる。


 「はい、村木君」


 「えぇと。ひ、ひいらぎって読むんですよね?」


 最後が疑問系になってしまったのは、仕方ないだろう。俺としては努力したほうだ。


 そんな俺の思いなど知らず――中居先生は俺をするどく見て、「はい、正解です」と優しく微笑ほほえむ。


 教室の空気が静まり、無音の時間が続くが、そこに後ろの席にいるるいがホッと息をらした。


 涙に続き、他の生徒たちも安堵あんどの息をらす。


 キンコーン カンコーン


 そこで、LHR終了のチャイムが鳴った。










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