退館
「で、出来た…考え過ぎて正直、内容の良し悪しはわからないけれどでも出来た!」
文字の書かれた数枚の紙を手に勢いよく席を立つ栞の興奮した声が、静かな図書館に響き渡る。
「後はこれをアウルに渡すだけね。」
良しと頷くと、栞は眠っているアウルを探すべく辺りを歩き回る。
アウルはどうやっているのか、睡眠時間中は姿を消している。
そのため肉眼で探すのはなかなか難しいのだが、図書館事態はそれ程広いわけではない。
これで最後になるのだし、殆ど机と向き合っていて余り見て回らなかった事もあり、探すついでに少し探検もしようと思った。
と言っても、出入り口の無い事以外は普通の図書館なので、それ程楽しい事は起こり得ないのだが。
「どの本も埃だらけ…掃除とかしてないのね…。」
適当な本を手に取りパンパンと叩くと煙のように埃が舞った。
それを吸ってしまい数回むせつつも栞は適当なページを開いて目を通す。
字を目で追ってみるも、やはり何も感じない。
アウルが食べた後なのだろう。
別の本棚の本も同じように読んで見るが、やはり何も感じない。
栞は本を棚に戻すとアウルを探す事にした。
早くも図書館の探検に飽きたのだった。
それから、しばらく辺りを歩き回るもアウルを見つける事は出来なかった。
仕方ないので何時もの席で彼が目を覚ますのを待つ事にし、図書館中心にある長机へと戻る。
すると
「探検はもう良いのか?」
梟頭の悪魔がそこにいた。
何時もの席で偉そうに足を組み、紙の束を手に持ち、そこに書かれている字を目で追っている。
「探したのよ?何処にいたの?」
「無論、空腹を紛らわすために眠っていた。あのままここにいたらお前の邪魔になりかねんかったからな。」
「そう。」
「ああ。」
「じゃあ、はい。コレ、だいぶ待たせちゃったけれど何とか形になったわ。」
数枚の紙を栞はアウルに差し出す。
アウルはソレを受け取ると
「確かに頂いた。」
と、静かに言った。
何も無かった図書館の壁にドアが現れたのはソレと全く同時の事だった。
「契約は果たされた。あのドアをくぐればお前は外に出る事が出来る。」
「何か、意外とあっさり出口出てきたわね。」
「何を期待していたんだ?お前は?」
「別に…それより食べないの?それとも、もしかしてもう食べたの?」
「俺は人前で食事をしない主義なのだ。心配しなくともお前が居なくなってからじっくり頂くとするさ。」
「そうなんだ………ねえ、その…また来ても良い…?」
「お前は本当に物好きだな。別に構わんさ。お前が来たいと言うのならまた来れば良い。この場は来る者を拒まない。」
「そっか……うん、そうね…じゃあ、行くわね。」
短い別れの挨拶を終えると、栞は出口のドアへと歩いて行く。
「おい栞。」
ドアに手を伸ばそうとした時、不意にアウルに名前を呼ばれ振り返る。
「何よ?寂しくなったの?」
「馬鹿め、そんな訳あるか。土産だ。ありがたく受け取っておけ。」
「ちょっ…投げないでよ!…何これ?」
ソレは小さな封筒だった。
宛名を書く所には律儀に栞の名が書かれて良いる。
「俺からの用は済んだ。もう行っていいぞ。」
「最後まであんたは……まあ、良いわ、それじゃあまたねアウル。」
「ああ、さらばだ栞。」
それで本当にお別れだ。
梟頭の悪魔は最後まで偉そうで、少しだけ感じていた寂しさなんていつのまにか何処かへ行っていた。
栞は笑顔で、ドアをくぐり図書館から退館して行った。
「またね……か……フッ。」
その姿を見送り、アウルは静かにそう呟いて笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます