おまけ

「ねえアウル、本って味はするの?」


「なんだと?」


それはふとした疑問だった。

いつも通りの執筆中、筆は進めど進展はなく、今日も今日とて紙くずを増やしていた栞が、不意に思った疑問。

梟頭の悪魔は栞からの唐突な変な質問に、珍しく紙束から目を離して聞き返す。


「いや、だから味よ味。食べるって事はあるのかなって思って。」


「ふむ、まあ、あると言えばある、だが悪魔の味覚は人間とは異なるからお前達の感じる味とは少々違うぞ。」


「でも、あるんだ。」


栞は少し興味を持ったようにアウルを見ると、手に持っていたペンを置いた。


「何だ?興味があるのか?」


「うん、まあ、少し?……ねえねえ、どんな話が美味しいの?」


興味津々に目を光らせて質問をしてくる栞に少し気圧されつつも、アウルはくちばしに手を当て思考する。


「そうだな、基本的に俺は好き嫌いをしないから別段どれが美味いと言う物はないが…愛だ恋だの話は少々苦手だな。甘ったるくて胸焼けがする。」


「へえ、そんなに甘いんだ…恋愛小説。」


「愛情の度合いにもよるがな。」


「どれくらい恋愛要素があると胸焼けするの?」


「そうだな…殺人が起きる程の愛だろうか?」


「それ恋愛小説じゃなくてホラーじゃないの…?」


「そうなのか?」と首を傾げるアウルに栞は苦笑いを零す。


「でも、そっかー…味があるのかー。ねえ私にはどんな話を書いて欲しい?」


「別に何でも構わん。」


「人がせっかく親切で聞いてあげたのに何よその素っ気無い反応。」


「自分の書きたい物すら形に出来ていない奴が他人の好みに合わせられるのか?」


「うっ…それはまあ…難しい…かも……」


「わかったら俺の好みなど気にするな。それよりも筆が止まっているぞ?」


痛い所を突かれ机に突っ伏す栞を勝ち誇ったように見下ろす梟頭の悪魔。

栞はそんなアウルの顔に苛立ちを感じつつも机に置いた筆を取る。


「ドロッドロ、グチャグチャな恋愛小説書いてその顔歪めてやるから覚えときなさいよ…」


「ああ、是非とも頑張ってくれ。出来るのならな。」


そんな会話を最後に図書館にはまた、静寂がおとずれた。

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書架と梟 鳥の音 @Noizu0

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