追加条件
「う……うーん………!」
全身に嫌な汗。
手にはペンが握られ、机に置かれた原稿用紙はくしゃくしゃになっている。
何とも言えない不快感に包まれながら栞は目を覚ました。
「うなされていたようだが変な夢でも見たのか?」
さして興味もなさそうに梟頭の悪魔が少女に問う。
「そうみたい…内容は思い出せないけど…。」
「そうか。ところで1つ質問をしても良いか?」
「何よ?」
「大した事ではない。いや、お前の書き掛けの物語をいくつか読んでいたのだがな。何故どれも主役がトラックに跳ねられるのかと疑問に思ってな。もしかしてスプラッターホラー物を書いているのか?」
いつも何かを読みながら話をする彼の手にはくしゃくしゃの原稿用紙が握られている。
「ちょっ!なに勝手に読んでるのよ!か、かえせ!」
「どうせ俺に提供する物なのだ、別に目を通しても良いだろう?」
「まあ、それはそうだけど…微妙でしょ?」
「内容はわからん。だが、そうだな。冒頭では惹かれないな。」
アウルの率直な感想に少しばかり傷付き、栞は机に項垂れる。
「結構読んだジャンルの筈なんだけど、何でか同じようにうまく書けないのよね…納得がいかないと言うか…面白いと思えないと言うか…とにかく続かないのよ。」
「成る程…ではプロットから見直すべきだろうな。」
「プロット?」
「まさか知らないのか?プロット…。」
「知らないわよ?プロット。」
頭を抱える悪魔を前に、栞は「何それ?」と小首を傾げる。
「そうだな…プロットとは簡単に説明すると物語の大雑把な流れのような物でな、長編を書くのなら作っておいた方が良いのだが…まあ、その反応を見るに作っていないのだろうな。」
「まあ、作ってないわね…て、何よ?そのやれやれみたいな反応!」
「俺は基本的に物語作りには口出しをしない主義なのだが…このままではかなり時間がかかりそうだしな…栞、悪いがお前の物語に条件を追加する。」
「条件?」
「ああ、条件だ。まず一つ、一話で完結する話を書け。二つ、主要人物は多くても三人までにしろ。そして三つ、千文字程度で終わらせろ。以上だ。まあ絶対厳守の物ではないが極力守れ。」
手帳のページをちぎり取り三つの条件を書き込むと、アウルはソレを栞へと渡す。
「ちょっと、何でいきなり?」
「いや…いくら俺が死に難いとは言え、さすがに今のペースでは餓死しかねんのでな。その対策だ。それにしても、ここへ迷い込んで長編を書こうと考えた者はお前が初めてだ。栞、お前余程外が嫌いのようだな。」
「そんな事ないわよ。まあ、せっかくの非現実的なイベントなんだし、出来るだけ長くソレを堪能していたいなとは思ってるけれど。」
「そうか。まあそれ自体は別に構わん。だが俺はここ数年食事が出来ていないと言う事を覚えておけよ?」
「わ、わかってるわよ。」
栞は姿勢を正すと、ペンをくるくると回し何を書くかを思案する。
「ん?そう言えば、あなたさっき私の事名前で呼んでた?」
「ああ、呼んだが、何か問題でもあったか?」
初めて呼ばれた名前、それが何だと言うわけではない。
ただ少しだけ…以前よりほんの少しだけ、認めて貰えたのだろうか、などと栞は考えた。
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