心機一転
静寂に包まれた図書館には少女が一人。
木製の机に置かれた原稿用紙には最初の一行だけ字が書きたされていた。
『私について。』
その文字を見つめながら、少女は考える。
そんな、小中学校の作文みたいな、くだらない題名が書かれた原稿用紙と栞は真剣に向き合っている。
「私について……私…か………」
いつもならここで偉そうな男の声が聞こえてくる筈なのだが今、梟頭の悪魔はこの場にはいない…いや、見えないだけでどこかにいるのだろうけれど。
しかし今は一人だ。
だから少女は考える。
そうしてしばらく原稿用紙と向き合い続け、少女は静かにペンをとると字を書き出した。
…
私と言う人間を一言で表すのならば、それはきっと『平凡』ではないだろうか?
特にドラマ性のない、語るほどの物でもない、そんな平々凡々な日々を、やはり平々凡々に生きている。
思えば、そんな私がここに来たのは、もしかしたら変えられると思ったからではなかっただろうか?
予定調和に満ちた日々、周りの流れに身を任せる毎日
そんな退屈な日常において都市伝説や怪談はとても身近な非現実だ。
何冊も読み漁って来た本達とは違う。
剣も魔法もありはしない、勇者も魔王も存在しない、何でもかんでもを説明できてしまうこの現代社会において、唯一存在する
空想ではない、確かに現実に起こりうる奇跡
だから私は、その都市伝説を聞いた時、ワクワクした。
旧校舎の図書館に住む悪魔に私の日々を壊して欲しかった。
そこまで書き上げて、栞は原稿用紙を丸めた。
「アウル。」
「何だ?出来た……と言う風には見えんが…ふむ、良い顔になったじゃないか?」
「ありがとう…それより、あなた私を外に追い出そうとしたでしょ?」
「追い出す?帰してくれるの間違いじゃないのか?」
自分語りも立派な物語だ。
アウルの求める物とは違うが、しかしそれを渡せば悪魔の契約は果たされる事になる。
それに気付いたから栞は原稿用紙を丸めて捨てた。
「ねえアウル、私ね、自分の世界がここに来れば変わるんじゃないかと思った。だからここに来たの。図書館の悪魔が変えてくれるんじゃないかと思って……でも私気付いた…私が変わろうとしない限り、何が起きても変化なんて起こらないんだなって。だから私、ちゃんとした物語を書いて外に出たいの…もう一度チャンスをくれない?」
栞の真剣な懇願に梟頭の悪魔は笑う。
あいも変わらず小馬鹿にするように笑う。
「私、そんな面白い事を言った覚えはないんだけど?」
「嫌なに、お前は変な人間だと思ってな。チャンスも何もお前が先程まで書いていた原稿用紙は既にただのゴミじゃないか?ならば別の物語をお前は作らなければならない、わざわざ俺から許しを得る必要はないだろう?」
「そう、なら勝手にする。」
「ああ、勝手にしろ。」
互いに多くは語らない。
元より親しい仲でもないのだ。
そして再び元通りの光景へ、少女はペンを持ち悪魔は紙の束を手に取った。
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