図書館雑談 その2

サラサラサラ、カリカリカリ。

図書館内に響く音。

白紙の紙にペンが舞う。

流れるように字が走る。

不規則的なその音は心地よく奏でられ…しかし決して長くは続かない。

床に散らばる紙の束、それに負けじと丸められた原稿用紙があちこちに転がる。

そしてまた一つ、丸められた原稿用紙が床に落ちた。


「66か良い数字だな。後一つ6が揃えば尚良しと言える。」


相も変わらず、手に持った紙の束に目を向けながら梟頭の悪魔がクスリとぼやく。


「いちいち数えないでくれる!なんかムカつく!」


それを聞いて紙くずを量産し続けていた少女は手を止め怒鳴る。


「やっぱり無理!私には書けない…才能ないのよ…」


既に何度目になるかわからない絶叫を響かせながら、木製の机に栞は崩れ落ちるように突っ伏す。

アウルはそんな栞を見て、クスクスと楽しそうに笑う。


「偉く楽しそうね?あなた。」


「そうだな。確かに退屈はしていないな。」


「くそう…誰のためにこんなに頑張ってると…。」


「自分のためだろう?」


「あなたのためでもあるでしょう?あぁぁぁぁ…書けない…何も思いつかない!」


「無理に書こうとするからそうなるんだ。書けないのならば書かなければいいだろう?」


「どの口が!」


「この口だ。」


「書けって言ったり、無理に書くなって言ったり…なんなのよ。」


大きく一度伸びをして、そんな文句をため息と共に吐き出した。


「俺が書けと言ったのは、お前が書かなかったからだ。だが今のお前は完成させる事が出来ていないと言うだけで、書いていないわけではないだろう?ちゃんと物語を書き上げる気があるのなら、俺は別に書けとは言わん。お前のペースで書けばいい。」


少女に視線は合わせぬままに、梟頭の悪魔が言う。

それで栞は首を傾げた。


「あなたって…本当に悪魔なの?」


「どう言う意味だ?」


「いや…だって悪魔よ?悪の魔って書いて悪魔なのよ?なのに、あなた全然悪っぽくないんだもの。」


「まあ、元々俺が名乗り始めた物でもないしな、正確には悪魔ではないもかもしれないな。だがまあ、人間と言うのはルールから外れたものを悪とする習性がある。ならば欲望にのみ忠実に生き、したい事だけをする俺達を悪と捉えていても何らおかしな事はないだろう。」


「ルールを守る都合の良い人は正義で、それ以外は悪って?それじゃどっちが悪なんだかわからないわね。」


毒付く栞はまた新たな紙くずを作りソレを投げる。


「まったくだな。」


アウルはクスクスと笑いながら宙を舞う紙くずを密かにカウントした。

長い間の図書館生活の弊害か、こう言った、くだらなくとも暇が潰せる事を彼は無意識に実行するようになっていた。

カウントした紙くずの数字を笑いながら呟き、それを栞が聞いてついにペンをぶん投げるのは、もう44枚ほど紙をくずへと変えてからだった。

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