名知大学・農理学研究棟では最近、「真夜中に刃物を持った不審者がうろついている」という目撃談が囁かれていた。
夜遅くまで研究作業を行っていた博士課程の大学院生・塔山うららは、カップラーメンに注ぐ湯を沸かそうと赴いた休憩室で、ものの見事に噂の不審者と鉢合わせてしまう。
ところが、不審者の正体は鳥見川氷彗という美少女だった。修士課程の一年生である氷彗もまた実験のため遅くまで研究棟に入り浸らねばならず、夜な夜な休憩室で料理を作っていたというのだ……。
――という導入で始まる百合・GL系の現代小説です。
料理は化学実験である、とはしばしば耳にする言説ですが、本作はまさにそのフレーズを地で行く内容。
食材に含まれる成分や調理の過程で生じる化学変化についてなど、料理にまつわるアレコレにサイエンスの側面からアプローチしていくコンセプトとなっています。
また、食卓を共にするにつれて惹かれ合っていく二人の心の動きも見所。
大学院生という比較的高めの年齢設定ゆえか酸っぱさは控えめ、それでいてやっぱりまだ学生ゆえか初々しさも抜けきらない、そんなしっとり甘い百合描写が優しい気分を呼び起こしてくれます。
理系の日常を垣間見ながらてぇてぇ雰囲気に浸りたい方はぜひどうぞ。
※本レビューは「小説家になろう」「ノベルアップ+」にも掲載されています。
大学院の研究生である主人公は、夜型の生活が定着してしまった。
あるとき、同じような生活を送っているヒロインと出会う。
彼女は料理が得意で、食材に関する知識が豊富だった。
主人公は同じ食卓を囲むことに。
本作は、ただの飯テロ小説ではない。
「なぜ、ハンバーグにパン粉は欠かせないのか」
「みりんを肉じゃがに入れる理由」
「味噌が人体にもたらす作用」
など、科学知識に基づいた調理法のイロハを学べる。
こんな飯テロは、ありそうでなかった。
ただおいしい料理を作って美味しいというだけではない。
普通の料理の中にも、科学的な作用が働いていると教わると、普通の料理も感慨深いものへと変わるものだ。
ほんのりとした百合要素もすばらしい。
触れ合うたびに、ヒロインは主人公を意識するようになっていく。
名前で呼び合うのに時間がかかったりするところも、いじらしい。
周囲の人達も、どことなく百合雰囲気を放っていて、そこみ見どころである。
大学院生という設定を存分に活かした、科学飯テロなのである。
ただ一つだけ、不明な点が。
「百合+飯テロ+知恵袋が、どうしてこんなに萌えるのか」
ヒロインに聞いてみたいモノである。
うらら先輩や氷彗さんと近い境遇……とは、どこまで言っていいものか微妙ですが。
夜更けの研究室で、空腹と人恋しさに抗いつつ(百合を妄想しながら)種々のサンプルと格闘する生活を送っている学生の自分にとっては、至る所に刺さりまくりでした。プライマー相補性120%、深刻なリガンド過多。
まずですね、料理の科学的説明が圧倒的美味!
「あくまでスパイス」とのことですが、本格的に厳選され洗練されております。
自然科学に造詣のある人は「この料理とあの化学現象が繋がるのか!」と得心されるでしょうし、理科の苦手な人は「興味ないと思ってた科学も、知ってると面白そう!」と刺激されるでしょうし。
理系専攻のはずが化学音痴である僕は「どっかで見たアレだ! おもしれー!」と毎回鷲掴みにされています。つまりは万人に面白い。
繰り広げられる会話にも、理系学部のリアルな空気を感じています。深夜に謎な遭遇をしたりとか。ドクターがやたら大変そうだったりとか。知り合いが実験に使ってるカエルが美味いらしいだとか。「10の3乗オーダー」みたいな言い回しをしてしまったりとか。キムワイプ卓球は……対戦相手がいない……ごほん。
ちなみに「実験が上手い人は、料理が美味い」という例は身近に知っています。僕はどっちもド下手ですが。
そして百合としても最高です。毎回PCR(Pretty Chain Reaction)掛かりまくりです。
うらら先輩の一挙一動に心が揺れまくりな氷彗さんがとにかく可愛くて、応援せずにはいられないです。大丈夫だよ氷彗さん、うらら先輩の心と胃袋は不可逆に掴まれてる……はず!
うらら先輩は、時折ぐいっと距離を詰めてくるのが堪らないです。それでいて、接近に無自覚気味なのが、こう色々と、非常に、心臓に来るのです。この先輩、後輩の心を揺らした責任を取ってくれるのでしょうか。
甘さと淡さが入り混じった両片想い、とでも言いましょうか。ふたりの今後、非常に楽しみにしております。
そんな魅力満載の本作、あなたの萌えの琴線と知的好奇心と摂食中枢をactivateすること間違いなしです。これは p < 0.001 くらいの確信です。
気になった今この瞬間こそが食べ頃、どうぞ召し上がれ!