一口にいえば大江戸ウィザードリィ、となるわけですが、本作の魅力はその世界のディティールにあります。読み進めるにつれ分かってくる迷宮の異常性。最深部に座す虚空権現は人の願いを叶えると言われ、迷宮は哀れな探降者たちを日々飲み込んでいます。その死体の成れの果てが薬に加工され、探降者の命を繋ぐ不気味。江戸の地は迷宮から齎された奇妙な植物や生き物、慮傍と呼ばれる異種族に侵食され、もはや読者の知る江戸ではなくなっています。迷宮という異形の世界と、その狂気に飲み込まれていく探降者の在りよう。このあたりが作品の良さでしょう。
そしてそこに登場する主人公、樋口。万事いい加減で善人でもないが、さりとて悪漢というわけでもない。まさに無頼漢です。この無頼の男が、おおむね自分のために隊伍を組んで迷宮へともぐって行く。そこに集まる仲間たちもまた、他人のことより自分が大事の無頼の徒。わけのわからぬ迷宮世界と、この痛快なる一団の組み合わせが、凡庸なるダンジョンものとは一線を画す面白さを生み出しています。
無頼の一団が江戸の地に巻き起こす大迷惑、このドタバタを見逃す手はありません!さあ、いますぐご一読を!
※作品は絶対評価したいので星の数は適当です(全部星二つです)。
※二章四話まで読んだ感想です。
江戸の町に、突然ぽっかり大迷宮が現れた。最深部にある虚空権現に願いを叶えてもらうべく、探求者たちは今日も行く。それはそれとして、咎人たちにとっての罪を雪ぐ処刑場にもなっているらしいぞ。生きて出られたら無罪放免だとさ。
『ウィザードリィ』『ドラクエ』『不思議のダンジョンシリーズ』各種MMORPGなどの世界観を、まるっと江戸時代にローカライズして、その上で『疾走する玉座』の作者らしい、広範な知識を駆使した闇鍋ごった煮カオスシチューな味がふんだんに楽しめる、イカした物語です。
※※
イカれたメンバーを独断と偏見で紹介します。
〇樋口二郎―――大江戸ジャックザリッパーこと人斬り樋口さんがとっ捕まり、レベル1で地下五階に放り込まれたところから物語は始まる。
愉快な快楽殺人鬼かと思いきや、意外と自分なりのヒューマニズムを持っていて、今はいろいろあってヒロインを助けるために奮闘したりしてる。
これまた意外と哀しい過去が明らかになったりもするが、ウジウジしてもすぐに立ち直る江戸っ子。
〇雪之丞―――江戸時代にもいたんだろうなトランスジェンダー。女性の身体だが、男になるためにダンジョンに潜る。ひょんなことから二郎の相棒になった。弓使い。基本的に生真面目堅物でギャグもあまりしないので紹介文もふざけられない。
〇廻鳳(えほう)―――ダンジョンで薬屋兼道具屋兼宿屋みたいなものをやってる少女。二郎は彼女がいなけりゃ速攻でゲームオーバーだった。二郎たちに良くしてくれるが、死んだら死んだでサバいてバラしてリサイクルできる世界観なので多分ウィンウィン。
〇喜兵衛―――機人(きじん)。ダンジョンから湧いてきて、外を目指してウロウロしてる存在。地上に出て、江戸をウロウロしている個体もいる。地の文の説明から、レビュー主は鉄人28号みたいに蒸気をプシュープシューいわしながらスターウォーズに出てきたグリーヴァス将軍みたいに戦っている絵を想像している。つまりよく分からない。ご自由にどうぞ。
〇喜兵衛―――幼児。最初の探索が終わったらなんか出てきた。ネタバレになるのであまり深く紹介できないが、多分この世のものじゃない感じ。やっぱり呪い食ってるような奴はやべーな。
〇ラーフラ・ワイガード―――恐らく本作のライバルキャラ。ダンジョンを親の仇のように憎み彷徨う男。超強い。なのにすっごく浅い階層をウロチョロしてたりする。
〇大烏―――厳密には人物ではないが、レビュー主の印象に残ったステージギミック。見た目は大鳥居。くぐると深い階層に飛ばされる。帰還中、残り一階層でコイツに引っ掛かったら短気なゲーマーは電源をブチ切るだろう。
〇寺田宗有―――実在した剣客。本作では防人としてダンジョンを探索している。超強い。先述のクソゲー大烏をエレベーター代わりに使用する猛者。マジ超強い。
〇藤見麟堂―――廻鳳の師匠。震央舎という、頭野菜・頭機械・頭人斬りが通うダイバーシティ溢れる塾を経営するジジイ。とりあえずナマの感覚でダンジョンで捕れた怪しいキノコを煎じて飲ませてくるジジイ。こやつの薫陶を受け、虚空権現の効験あらたかな廻鳳もちょっとおかしくなった。
〇薊野(あざみの)―――西瓜頭の呪言者。最初レビュー主は、スイカみたいにデカい頭の男のことかと思ったら、後に南瓜(かぼちゃ)頭や冬瓜(とうがん)頭まで出てきたので「あ、こいつガチでスイカなのか」と納得した納得できない。もはや江戸というか、地球ですらなくなってきているのではと不安になる。
そんな大江戸ダンジョン物語。作品の空気感と文章の読みやすさの観点から、縦組みで読むのが推奨です。是非。
いきなりダンジョン深層に放り込まれて、生きて戻るために探索するってアツくないすか。しかもとんでもない奇想モンスターやからくり人形とか出てくるし。しかもダンジョンが生まれた経緯とかが凝ってる。当方自作も設定厨の気味があるせいか、こういうの大好き。
ウィザードリィ初代にハマった人ならわかると思うけど、「この扉を潜らないと先に行けないけど、進みたくない(ワープさせられ迷子になるかも)」「この階段を降りないとならないが、階層が深くなると絶対ヤバい奴出てくるから行きたくない」といった感覚。あのゲームは特にキャラロストの危険性があるから、すごい緊迫感があったじゃないすか。
本作にはあれがある。というか本当にウィズの香りを強く感じる。モンスターも仕掛けも。タイトルだけではそのへん伝わらないのがもったいないくらい。
(この先ネタバレ注意)
序章に特にこうした感覚があって、個人的にハマった。一章では地上に戻った主人公が自らの出自の謎に巻き込まれながら、江戸の街を謎解きながら走り回る疾走感がある。この先またダンジョンに潜るはず(しかも大底まで)なので、また楽しみだ。