時代劇、異形の迷宮、無頼漢

 一口にいえば大江戸ウィザードリィ、となるわけですが、本作の魅力はその世界のディティールにあります。読み進めるにつれ分かってくる迷宮の異常性。最深部に座す虚空権現は人の願いを叶えると言われ、迷宮は哀れな探降者たちを日々飲み込んでいます。その死体の成れの果てが薬に加工され、探降者の命を繋ぐ不気味。江戸の地は迷宮から齎された奇妙な植物や生き物、慮傍と呼ばれる異種族に侵食され、もはや読者の知る江戸ではなくなっています。迷宮という異形の世界と、その狂気に飲み込まれていく探降者の在りよう。このあたりが作品の良さでしょう。
 そしてそこに登場する主人公、樋口。万事いい加減で善人でもないが、さりとて悪漢というわけでもない。まさに無頼漢です。この無頼の男が、おおむね自分のために隊伍を組んで迷宮へともぐって行く。そこに集まる仲間たちもまた、他人のことより自分が大事の無頼の徒。わけのわからぬ迷宮世界と、この痛快なる一団の組み合わせが、凡庸なるダンジョンものとは一線を画す面白さを生み出しています。
 無頼の一団が江戸の地に巻き起こす大迷惑、このドタバタを見逃す手はありません!さあ、いますぐご一読を!

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