プロローグ (2-4) ヒロインの異能力

   

「別に、こちらの手の内を明かす義理はないんだけど……」

 少女は軽く苦笑してから、

「さっきの攻撃で、オジサンの能力は、もうすっかり丸裸だものね。いいわ、私のも教えてあげる」

 吹っ切れたような表情に変わり、語り始める。

「今オジサン自身が口にした通りだわ。まさに『能力を無効化した』のよ」


 彼女は答えたつもりかもしれないが、相手の男には通じなかった。

 ジェネレーションギャップのたぐいではなく、少女の答え方が悪いのだ。回答になっていないのだ。少なくとも、男はそう感じた。

 だから、

「……どういう意味だ?」

 再度、男は聞き返す。

「どういう意味も何も……。そのままの意味なんだけど……」

 困ったように呟く少女。

 続いて彼女は、何か思いついたような顔になった。

「ほら、私のコードネームを思い出して。VSV、つまり『すいほうせい・こうないえん・ういるす』でしょう?」

 当然、そこまでは男もわかっている。わかっているからこそ、組換えVSVワクチンなどという発想も出てきてしまったくらいだ。

「……それがどうした。まだ説明になってねえぞ」

「だからね。私の能力は、相手の能力を『水泡すいほうに帰す』ってこと。つまり『能力の無効化』なの」

 さらに彼女は、まるでどうでもいいことであるかのように、彼女にとっては結構重要なポイントを付け加えた。

「といっても、この能力は万能じゃなくて……。使う度に代価として、私の口の中に白いブツブツが――いわゆる口内炎が――出来ちゃうんだけどね」

 口内炎のウイルスだから仕方がない。そんな諦めの気持ちで、少女は少し乾いた笑顔まで見せたのだが……。


 水泡に帰す。

 能力の無効化。

 少女の言った意味が男の頭に浸透するまで、少しの時間を要した。

 ようやく理解できたところで、

「ふざけるな! そんなもの、VSVモチーフの異能力でも何でもねえ!」

 男は、今度は怒りの言葉を口にする。

「VSVは『性口内炎ウイルス』だ! 『性口内炎ウイルス』じゃねえ!」

 性口内炎ウイルスではなく性口炎ウイルスという呼び方もあるが、どちらにせよ『』あるいは『』であって、間違っても『』ではない。

 いや、実は『性』という表記を目にしたこともあるのだが、それを男は誤表記だと嘲笑あざわらってきた。だからこそ今、目の前の少女の言葉が、いっそう腹立たしく聞こえるのだ。

「それじゃあ、コードネームに偽りアリだ! そんな言葉遊びみたいな話、俺は認めねえぞ!」

「知らないわよ、そんなこと。コードネームなんて、組織うえのほうが勝手に名付けただけなんだから。文句だったら、私じゃなくて組織うえのほうに言ってちょうだい」

 男の剣幕にも負けず、あしらうように言ってのける少女。

 さらに彼女は、聞き方によっては挑発とも思えるセリフを、男に向かって言い放つのだった。

「それで、どうするつもりかしら? この通り、あなたの能力は、私には全く通用しないんだけど……。まだ続ける?」

   

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コードネームはVSV ――美少女ヒロインがやってきた―― 烏川 ハル @haru_karasugawa

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