コードネームはVSV ――美少女ヒロインがやってきた――

烏川 ハル

プロローグ

プロローグ (1) どことも知れぬ闇の中で

   

 窓一つなく、照明器具も、淡い黄色光のランプが一つのみ。

 そんな薄暗い部屋の中、ポツリとおかれた椅子に、一人の男が座っていた。

 男は真っ黒なマントを羽織っており、ある意味、どんよりとした雰囲気の部屋には相応しいと言えるのかもしれない。

 突然。

 トン、トンと、部屋のドアをノックする音が聞こえる。

「入れ」

 黒マントの男は、椅子から立ち上がることもなく、ドアに顔を向けることもなく、声だけを発した。

 ガチャリと扉を開けて入ってきたのは、これまた黒い服の男。ただし、こちらは常識的なスーツを着ている。マントとは違って、そのまま街中を歩いていても奇異の目で見られることはない、一般的な格好だった。

 黒スーツは黒マントのもとまで歩み寄り、端的に告げる。

「ボス。新たな覚醒者の出現です」

「ほう」

 マントの男が、わずかに眉を動かした。

「で、場所は? どんなやつだ?」

「日本です。まだ十代の少年です」

「……またもや日本か」

 男の声は、何やら思うところありそうな響きだった。

 少しの沈黙の後、彼は言葉を続ける。

「どうせ、既に組織やつらは動き出しているのだろう?」

「はい。そのようです」

「ならば、こちらからも誰か差し向けねばなるまい。子供相手というならば……」

 黒マントの『ボス』がいくつか具体的な指示を与えると、それを受けて、部下の黒スーツは部屋を退出する。

 そうして。

 また一人になった部屋で。

 マントを纏った『ボス』が、つぶやいた。

「日本ばかりだな。もしかすると、単なる感染症ではなく……。日本の風土も、何か関係するやもしれぬ……」

   

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