「え? 合気道?」 「いいえ、大東流です!」


 大学を卒業して警察官をめざす南郷尚志は、ある武術の道場の門を叩く。
 『大東流合気柔術』。それこそが、彼の長い武道人生の始まりだった。


 作者の実体験をもとに書かれた武術修行の物語です。そこに描かれているのは、実際の道場の風景だったり、複雑な人間関係だったり、武術の神秘的な技であったりします。
 ときにシリアスに、場合によってはユーモラスに、凄絶なもの、清廉なもの、醜いものを、作者特有の軽い口調で、もの凄い内容をさらりと明るく語ってくれます。


 主人公の尚志は、漫画好きの格闘技好き。あの当時は、みんな漫画を読んでいたし、格闘技や武術は、漫画と近いところにあったのです。が、尚志が入門するのはなんと大東流合気柔術。スタートからしてちょっとマニアックです。

 大東流合気柔術は、合気道とはちがいます。でも、技は同じらしいです。
 また、「合気」というものを使って相手を投げるのなら、技がちがってもそれは合気柔術だとか。逆に、技が同じでも合気を使って投げないと合気柔術ではないのだそうです。
 門外漢なので、正確な認識ではないかもしれません。訂正必要でしたら、ご連絡ください。

 本作では、尚志が体験する面白いエピソードが毎回てんこ盛りです。が、実際の武術修行は、毎回面白いことなんてなくて、地道な稽古の繰り返しです。そんな日々の中で体験した、たまにある珠玉の体験談。それを楽しむと同時に、作者がこの何十倍も何百倍も、退屈で地道な反復稽古を続けてきたことも頭の片隅に置いておいてください。

 武術の世界は狭く、にも拘らず広大無辺です。

 本作は、武術を全く知らない人に、それを簡単に、そして分かりやすく教えてくれる快作です。読んでいて愉快な気分になれるし、語られる内容にも毎回驚かされます。
 武術の話を書ける人は大勢いると思います。が、こんなに楽しく、明るく、面白く書ける人は珍しい。きっとこれは、尚志の人徳でしょう。いや、体格かな?
 なんにしろ南郷尚志のキャラクターが楽しいです。どこかユーモラスで、武張っているけど、それもちょっとだけ。

 本作は、ちょいと武張った愉快な男、南郷尚志の物語です。



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